『ちむどんどん』智と暢子のすれ違いが切ない 鶴見の浜に散った男たちの純情

 『ちむどんどん』(NHK総合)第69話が放送された。ちょうど大相撲名古屋場所が開催され、連日熱戦が繰り広げられている。沖縄県人会主催の角力大会1回戦では、和彦(宮沢氷魚)と智(前田公輝)が対戦。両者一歩も譲らないまま倒れ込み、勝負の行方は判定に。三郎(片岡鶴太郎)の鶴の一声で取り直しとなった一番は、智が踏ん張る和彦を投げ倒して勝利する。智は2回戦と準決勝も勝ち進み、賢秀(竜星涼)との決勝に臨むことになった。

 1回戦から決勝のような熱気が充満していた角力大会。力と力のぶつかり合いから、各自の譲れない思いが見えた。優勝して暢子(黒島結菜)にプロポーズすると決めた智は気合十分で、相手が和彦であっても手を抜かない。智の決意を知った和彦は必死に抵抗する。2人を見つめる暢子と愛(飯豊まりえ)。幼なじみの智を無心に応援する暢子に対して、愛は無言で和彦を見つめる。それぞれの思いをもって立っている4人。

 愛が和彦を見てつぶやいた「そういうことなんだね」は、和彦が愛に言いかけてやめた「やっぱり……」の裏返しだった。暢子に対してはっきり「好き」と意識していないが、誰かのものになってしまうのは嫌な和彦。愛はなんとなく感づいていても、これまでになく真剣な恋人の姿を目にして、和彦の心にいるのが自分ではないことを認めざるを得ない。暢子に智の気持ちを知らせたのは、せめてもの意地ではなかったか。

 そして、誰よりも自身の思いが遂げられないことを理解していたのは、この日の主役である智だった。賢秀の戦意喪失という幸運はあったが、足の負傷を乗り越えて優勝をなしとげた智は暢子に告白。「結婚しよう。必ず幸せにする」「やんばるにいたころから暢子が好きだった」「俺が我慢する。いつもなんでも暢子に合わせる」と思いを打ち明けるが、暢子の答えは「智がうちに感じているのは愛情じゃなくて友情」「うまくいくわけないさ」「うちは嫌。ごめん」。

 この日まであえて言葉にしてこなかったが、2人の思いは最初からすれ違っていた。むしろこうなるとわかっていたからこそ、智は暢子に受け入れてもらえるように頑張り、暢子も意識しないように幼なじみとして接してきたのだ。しかし、いつかは明らかになってしまうもの。全てを賭けて失った智には同情を禁じ得ない。

 シリアス展開でおちゃらけキャラは貴重である。何度目かわからない賢秀のハートブレイクが、失恋の憂鬱さを打ち消してくれた。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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