宮下兼史鷹が2022年上半期映画を語る 『トップガン マーヴェリック』に宿る魔力を熱弁!

近年の日本アニメ映画でダントツで1位の『アイの歌声を聴かせて』

『アイの歌声を聴かせて』(c)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

――『アイの歌声を聴かせて』は、どういったところがお好きでしたか?

宮下:女の子が主人公の日本のアニメ作品、僕はそこまで観ないんですよ。筋骨隆々な男とか、哀愁漂う男……クリント・イーストウッドとか、そういう人が好きなので、倦厭しがちな部分があります。ただ、この作品はあまりにも評判が良かったので観てみたところ、度肝を抜かれたというか。物語に登場するAIがすごく怖いんですよ。土屋太鳳さんが声を当てているのですが、ちょっと狂気さえ感じるぐらい“怪演”に近い演技をされていて。AIなので感情が入っていない。なのに、歌を急に歌い出す。それが「バグってんじゃないかな」と思うくらい、怖いんです。そういう話かなと思っていたんですけど、ちょっと想像よりも深さがあって。やっぱり反乱を起こしたり、最終的には『アイ,ロボット』みたいなことになるのかと思っていますが、そうでもなく、良い意味で裏切られました。僕は急に主役の人が歌い出すことに対して全然苦手ではありませんが、ミュージカルパートはそういう人でも観られるように、歌ってしまう理由付けという根本がしっかりしていて、それを物語の盛り上がる部分にしていることに驚かされました。多分、1番この映画を観て悔しがっているのはディズニーの関係者なんじゃないかなとさえ思っています。本来、現代のディズニーが何かメタ的な話を作りたいとなったときに、あの発想は1番使いたかったのかなというぐらい、アイデアが素晴らしいんですよ。ここ5年くらいで観た日本のアニメ映画の中では、ダントツで1位かもしれないですね。

――ディズニーといえば、マーベルに対する造詣も深いと伺いました。現在、ディズニープラスではドラマシリーズが独占配信されたり、映画も作家制の高い監督から新手の監督まで、あらゆる人と共に作り上げたりしている動きが特徴的ですが、最近のマーベルについて感じること、今後期待したいことは?

宮下:結局、今のマーベル作品ってとても見やすいですし、万人にオススメできるようなものが多いですが、いかんせん、どうしても(作品それぞれの内容が)繋がっているんですよね。なので、一作を観るために履修しなきゃいけないものがとても多い。そういった部分で、初心者にはオススメしづらい部分がどうしてもあるので、『ムーンナイト』みたいな、単体の作品として楽しめるものは今後ももっと出てきてもいいのかなとは思っています。他作品と繋がりがなくても、独立して面白い作品が今後出てきたら嬉しいですね。

――先ほどウェス・アンダーソン監督がお好きとおっしゃっていましたが、詳しく聞かせてください。

宮下:アンダーソンは、『グランド・ブダペスト・ホテル』よりは『ファンタスティック Mr.FOX』が僕は大好きです。劇場に3回くらい観に行きました。Blu-rayを買った後も、半年くらい寝る前に観ることが日課になっていたくらい好きです。ずっと観ていたい世界観というか、どの場面を切り取っても“絵”として成立しているような作品を撮る人ですよね。そんな中で、『フレンチ・ディスパッチ』はアンダーソンが今までのやってきたことの集大成感を感じました。あの人の持つ監督技というか、そういったセンスを全部ごったに混ぜたような。人の動きがちょっとアニメーションチックなのも彼らしい部分ですよね。人間離れしているというか、重力を感じさせない瞬間があって、作品のテンポも良かったです。なかでも、レア・セドゥの監守役はミステリアスで、ちょっとサイコパスな部分もあって、彼女の演技も最高でした。

『私ときどきレッサーパンダ』はめちゃくちゃ面白い“少年漫画の1話”

『私ときどきレッサーパンダ』(c)2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

――確かに。『私ときどきレッサーパンダ』もチェックされたということですが、ディズニーやピクサー作品は新作が出たら必ず観るほどお好きなんですか?

宮下:そうですね。やはり、ピクサーは新作が出たら間違いなくチェックするようにしています。ただ、正直に言っちゃうと「『私ときどきレッサーパンダ』ってなんだよ」って思ったんですよ。ちょっと邦題どうなの、と思いながら全く期待せずに観ました。でも、ちょっとびっくりしましたね。伝わるかわかりませんが、めちゃくちゃ面白い“少年漫画の1話”を見せられているんですよ。主人公が自分の身に今起きている事象に向き合うまでの話として。そんな本作を女性監督が撮ったという事実に、「“そこ”はもう取っ払われたんだな」と感じました。「男性がどうだ、女性がどうだ」みたいなものは、もう全くないなと。主人公の女の子が韓国のアイドルが好きなんですよ。その「アーティストを好き」という気持ちは、言葉ではあまり表現できないようなもので。それこそ、大人になってから、「自分はなんであんなに熱中していたんだろう」とちょっと思うくらいのことかもしれない。でも青春時代では、「なんでこれを捨ててまで、好きなものを選んでいるんだろう」というぐらい好きで、それは言葉じゃ説明できない。そこをしっかり僕たちが共感できるように描いているところが、本作で本当に良かったと思った部分です。主人公のことを好きになるし、等身大に思える。だから気付けば、より彼女に感情移入をしてるんです。結構僕の中でピクサーは『トイ・ストーリー』と『モンスターズ・インク』が「やっぱりこの2つだな」みたいな立ち位置の作品でしたが、この2作のように子供の頃に観ていたという思い入れがなかったら、多分『私ときどきレッサーパンダ』は超えていますね。それくらい、とんでもない作品だったと思います。

――確かに漫画の第1話というか、ここから彼女のストーリーが始まっていく、みたいな感じがありますよね。

宮下:そうなんです。そのワクワク感があったので、最高の映画でした。「やられた」と思った瞬間がとてもたくさんありましたね。感情の“そこ”を動かされるとは思っていなかったところが、動かされるんですよ。『私ときどきレッサーパンダ』という題名から「どうせ子供のものでしょ」という感じに多少敬遠している方がいるのであれば、マジで観てほしいです。少年漫画です。

――最後に、2022年下半期に公開される新作で、楽しみにしている作品を教えてください。

宮下:やはり、『ソー:ラブ&サンダー』は楽しみです。最初はソーが神として出てきましたが、作品を追うごとにどんどん人間に近づいて、ちゃんと落ちぶれたり、感情の浮き沈みがあったり、その動向がすごく気になっているんですよね。80年代っぽい雰囲気の感じも良さそう。コミックにも登場するレディ・ソーというキャラクターを映画でどのように扱うのか、という点にもすごく期待しています。

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