『鎌倉殿の13人』“ラスボス”は三浦義村? 三谷幸喜に聞く、頼朝の死とここまでの手応え

想定以上に成長していった人物は善児(梶原善)

ーー鎌倉時代をテーマに大河ドラマを書いて実感した面白さを教えてください。

三谷:書いてみて思ったのは、戦国とか幕末とは全く違う世界で、神話性に近いんですよね。あの時代の人たちは神様を身近に感じていて、頼朝もそうですが信仰心が厚く、実際に神頼みだったり、予言、呪い、夢のお告げだったりに縛られた人たち。その分人間の根っこの部分がストレートに表現できる感じがします。これは先の話になりますけど、比企一族が滅亡した時に比企尼(草笛光子)がある人物にある種の呪いの言葉を告げて、先々に新たな悲劇を生んでいくという展開もありますし、この時代には物語としての豊かさを感じますね。そんな中で義時は最もドライで、現実的な登場人物なのかなという気がしていて、混沌とした中で一人だけリアリストがいた、というイメージですね。そういう意味でも、義時を主人公にしたのは正解だったなと思います。

ーー頼朝が亡くなった後は小池栄子さん演じる政子が尼将軍として大きな権威を持つ存在となっていきます。

三谷:僕は北条政子という人物が悪女として名前が知れ渡っているのが不思議でしょうがなくて。例えば織田信長だったらわかるんですが、政子はそこまで言われるようなことはしていない気がするんですよ。その局面で彼女は妻として、母としてやるべきことをやっているだけで、でも事態はどんどん悪くなっていく。むしろ悲劇の主人公のような気がしています。それは今後もずっと続いていくと思うし、小池さんもそういうつもりで演じていらっしゃると思うんですけれども、決して悪女ではない、とても真摯な一人の女性だと思います。そんな政子という女性の生涯を描くことができることに大きな喜びを感じています。

三谷幸喜作品に欠かせない存在・梶原善 『鎌倉殿の13人』善児役の底の見えない怖さ

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公・北条義時(小栗旬)の祖父である伊東祐親(浅野和之)の下人、善児を演じる梶原善。主人か…

ーーここまで脚本を書いてきて三谷さんの中で想定以上に成長していった人物はいますか?

三谷:自分の意図を超えて成長した人物に、善児(梶原善)がいますね。こんなにブームになるとは予想していなかったです。もちろんそれは梶原善さんの力が大きいんですが、あそこまでのキャラクターに成長するとは思ってもいなかったですね。それを踏まえて善児にこんなことをさせようとか、先の話になってしまいますけど、もともと最終回までいさせようとは思っていなかったので、ここまで成長した善児にはどんな幕引きのさせ方をすれば視聴者の皆さんが満足するだろうかということを踏まえて、退場シーンは書きました。彼らしい壮絶な形でドラマを去ることになりますので、お楽しみに。あとは実衣ですね。最初は政子の話し相手をして茶々を入れるだけのキャラクターのつもりでいたんですが、書き進めるうちに、そしていろんな資料を調べたり読んでいくうちに変わりました。これは宮澤エマさんが演じている姿を見たのが大きかったんですが、そのままではもったいない、これはもっと成長していくべき人で、そんな姿が見てみたいと思ったんです。宮澤さんと実衣、両方を含めて彼女の本番はこれからですね。段々と彼女の人間味が見え始めましたけれども、権力欲に飲まれていく実衣の姿は書き始めた時には想像もしていなかったので、自分でも、すごく意外だし面白いなと思っています。

ーー第24回では、山本耕史さん演じる三浦義村が北条家に差をつけられた三浦一族の地位を危惧するシーンがありました。同じ鎌倉時代を描き、三谷さんも大きな影響を受けている大河ドラマ『草燃える』では義村が後半の黒幕として描かれていました。

三谷:三浦義村って不思議な人で、なんかよく分からないんですよね。その面白さを生かしたいなと思いましたし、それに加えて演じる山本耕史さんの魅力ですね。山本さんには土方歳三(『新選組!』)、石田三成(『真田丸』)と、僕が書く大河に毎回出てもらっています。そこで今回、山本耕史さんには何をやっていただこうかと考えた時に、あのつかみどころのない、でもなんか分からないけどかっこいい三浦義村をぜひ演じてもらいたいと思いました。僕の中では主人公の友人でずっと一緒にいるんだけど味方なのか敵なのかよく分からないポジションというのがあって、大河ドラマ『風と雲と虹と』で山口崇さんがやられた平貞盛もそういう役なんですね。主人公は加藤剛さんが演じた平将門で、その親友。なんとなく品があって、気高い感じもするんだけれども胡散臭くて、頭はいいんだけど信用できないみたいな。そんなイメージを山本耕史さんに演じてもらいたいと思っていました。案の定、第25回まできてもいまだにどんなやつか分かっていない(笑)。最後までどんなやつか分からない感じで貫いてほしいなと思っています。でも、歴史好きな方ならご存知かと思いますけど、最後の最後に義村は暗躍します。そしてせっかく山本さんに演じてもらうのだから、最後の最後に、義村の最大の見せ場を用意するつもりです。まだ言えませんが、物語の終盤、ラスボス的な存在で主人公に立ちはだかるのはこの男かもしれません。

ーー現段階でラストの構想は見えているのでしょうか?

三谷:自分の中で決めていることは、主人公の人生が終わる時が最終回だと思っていますね。理想は主人公が息を引き取った瞬間にドラマが終わるのが、僕にとって理想の大河ドラマで、実際『新選組!』と『真田丸』もほぼそうなっていました。今回その理想にたどり着けるのかは分からないですが。今言えるのはそれくらいです。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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