『ペーパー・ハウス・コリア』をスペインオリジナル版と比較 改変されたことと失ったもの

 シーズン5を以て完結し、世界中を夢中にさせたスペイン発のNetflixシリーズ『ペーパー・ハウス』の韓国版『ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え』の配信が6月24日より開始された。

 本シリーズの大まかなプロットはオリジナル版と変わらない。8人の犯罪者が「教授」の考えた“完璧な計画”に乗っかり、巨額の富を得ようとする。しかし、それは単純な強盗ではなく、造幣所に立てこもることで“まだ誰の物でもない”紙幣を刷るというものだった。人質を救い、彼らを逮捕するために外で待機する警察と犯罪集団の攻防戦がスリリングに描かれる点が、このドラマの魅力である。

 8人の強盗団はみな、お互いの名前や個人的な情報を交換してはいけないルール、誰も殺してはいけないルールなどを教授に課せられる。それぞれを都市の名前で呼び合う彼ら、その人物造形、そして人質の役割や脚本状の大きな出来事なども含め、この韓国版はかなりオリジナルをなぞる形で作られている。そのため、両作品を比較することは避けられないのだ。

韓国リメイクならではの設定

 登場人物や展開などがほぼ同じではあると述べたが、本作の見どころは“韓国がリメイクしたからこそ”の設定や演出だろう。スペイン版『ペーパー・ハウス』同様、本シリーズも自身の生活を振り返るトーキョーのナレーションから始まるが、韓国版は朝鮮半島が北と南で再統一を試みるなか、架空の共同経済区域が誕生した成り行きに重きを置いて語られる。そこは、かつては韓国と北朝鮮の分断を象徴する共同警備区域だった。それが今は平和統一の実験場となり、トーキョーをはじめとする“北出身”の者たちは「コリアンドリーム」を叶えにやってくる。本作で強盗が盗もうとする統一通貨こそ、その象徴とも言えるのだ。しかし、統一を図ろうとも、そこに根付く南出身者の北への差別や両者の経済格差はなくならない。このように、本作は朝鮮半島というエリアを描くことで、そこにある社会問題を全面的に作品のカラーとして提示しているのだ。

 オリジナルのスペイン版も、社会性という意味では国と市民の対立構造があった。彼らが盗むのはスペイン王立造幣局。スペインは議会君主制で、国王が象徴君主として存在する国だ。それと同時に国王は国家元首として国家の統一と永続を象徴する。そんな中で強盗集団や教授は世論を味方につけるために、警察を悪く見せようとしたり、死人を出さずに人質に対しても人道的に扱ったりと努める。彼らの会話の中にプエルタ・デル・ソル広場でのデモが話題に上がるのだが、このデモはスペイン国王フアン・カルロス1世が退位した日に起きたものだ。その退位が君主制の維持を意味するのか、国民が国家元首を選べる共和制に移行されることを意味するのか。国民が後者の共和制を求めるデモだった。

 しかし、オリジナル版のシーズン1はそういった政治的なテーマは微かに匂わせる程度で、キャラクター描写に最も注力している。どの国の視聴者が観ても入りやすいように、国のことではなく“人”を描いたのだ。しかも、彼らは完璧な計画を非常に人間的なミスを重ねて狂わせていく。その様子に理解と共感が集まり、気がつけば彼らの作戦の成功を願って止まないくらい手に汗握って展開を見届けてしまうようになるのだ。この“人を描く”という点で、韓国版はオリジナルの持ち味を失っていたように感じる。

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