『鎌倉殿の13人』大泉洋だからこそ成立した新しい源頼朝 「佐殿!」の叫びが切なく響く
『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第25回「天が望んだ男」。このところ、源頼朝(大泉洋)は毎晩同じ悪夢を見て、うなされている。天に守られた命が残り短いことを察している頼朝は、不安を焦慮にさいなまれる。
第25回はそんな頼朝の最期の1日が時間をかけて丁寧に描かれた。頼朝を演じる大泉持ち前のコミカルさと、視聴者の心にじっくり沁み入るような台詞回し、そして表情が印象深い。物語前半では迫り来る死への不安から声をあげたり怯えたりという姿が目立ったが、物語が終盤に近づくにつれて、憑き物が落ちたように佇まいが穏やかなものになっていく。
大泉のコミカルな演技が光ったのは、喉に餅を詰まらせるシーンといえよう。もちろん、異母弟・阿野全成(新納慎也)にすがりつくシーンでの必死さや、頼家(金子大地)の息子・一幡を抱いてほしいと押し付けてくる比企能員(佐藤二朗)らとの押し問答、りく(宮沢りえ)と2人きりになりたい頼朝と安達盛長(野添義弘)のやりとりなども例のごとく面白い。そのうえで、餅を詰まらせるシーンでは、北条時政(坂東彌十郎)が「わしは政子(小池栄子)に感謝しとるんです。いい婿と縁づいてくれたなって。こりゃ本当です」と話す横で白目を剥いていた。時政がオロオロする横で百面相のように変わる大泉の表情には、不謹慎だとは分かっていても笑ってしまうおかしみがあった。
しかし、この思わずクスッと笑ってしまうような頼朝の言動があるからこそ、最期を悟り、これまでを振り返る頼朝の姿が心に響くのだと感じる。相模川での供養に方違えをすることにした頼朝は、道中、和田義盛(横田栄司)の別邸で、木曽義仲(青木崇高)の愛妾だった巴御前(秋元才加)と顔を合わせた。巴を前にした頼朝は「義仲殿もわしも、平家を討ってこの世を正したいという思いは一緒であった。すまぬ」と謝罪した。その目は涙で潤んでいるように見える。なにかを勘ぐったり、疑ったりするでもなく、素直に言葉を発していた。「あの時を思い出し、無性に謝りたくなった」と頼朝は言う。
次の瞬間には、全成から戒められていた法度に触れたことに気づき、われに返るのだが、このシーンでの頼朝の口ぶりには、義仲が度々口にしていた“まこと”があった。だからこそ、巴も「義仲殿も、そのお言葉を聞いて喜んでいることと思います」と返すことができたと考える。
頼朝の素直な思いが言動として表れたのは、巴とのやりとりだけではない。餅を詰まらせた後、命拾いをした頼朝が政子と2人きりで話す場面があった。頼家が妻と側妻を持ったことに「女子に手が早いのは親譲りとはいえ」とこぼす政子だが、「あなた(頼朝)が女好きでなかったら、私はあなたと結ばれることはありませんでしたから」とも伝える。「悔やんではおらぬか」という頼朝に、政子は「退屈しなかったことは確か」と返す。このやりとりに、鎌倉殿である頼朝を支えてきた政子の強さと、女好きとはいえ政子に愛を向けていた頼朝の仲睦まじさが見えてくる。しみじみした雰囲気を嫌がりながらも、政子と笑い合う頼朝の姿はとても幸せそうだった。
義時(小栗旬)と2人きりになったときには、頼朝はこんなことを言っている。