伊藤健太郎の名演に心の成熟を考える 『冬薔薇』に込められた阪本順治監督のメッセージ
ここまで主人公の淳の未熟さについて触れてきましたが、本作では父と子の、ある種の欠落を抱えた関係性について多くの示唆があります。ネタバレは避けますが、それは淳とその父・渡口義一(小林薫)の話だけでなく、登場する人物みんながそれぞれ抱えている欠落でもあります。人はいくら歳をとってもある種の欠落を抱えて生きていくのだ、ということを本作は突きつけます。伊藤はインタビューで「そういえば昔、親父とこんな感じで会話したことあったなあ」と父親との会話を思い出したと語っていますが、本作を観た多くの人が同様のことを思うのではないでしょうか。
冒頭で引用したサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の一節は、自分の心のサイズ感が掴めずに自暴自棄になる高校生の主人公・ホールデンに対して、彼にとって恩師とも言える教師から与えられた言葉でした。サリンジャーでも、本作でも、わかりやすい成長は描かれません。阪本監督が込めたメッセージを本作の鑑賞、そしてインタビューなどから考察するのが楽しめる作品となっています。
参照
・『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白泉社/2016年)
・『冬薔薇』プレス
■公開情報
『冬薔薇』
新宿ピカデリーほかにて公開中
脚本・監督:阪本順治
出演:伊藤健太郎、小林薫、余貴美子、眞木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司
製作:木下グループ
配給:キノフィルムズ
(c)2022 「冬薔薇」 FILM PARTNERS
2022年/日本/カラー/スコープサイズ/5.1ch/109分/PG12
公式サイト:https://www.fuyusoubi.jp/
公式Twitter:https://twitter.com/FUYUSOUBI_jp