『シン・ウルトラマン』メフィラスからなぜ目が離せないのか 山本耕史が持つ魅力から分析

メフィラスの「好きな言葉」からわかること

 『シン・ウルトラマン』のメフィラスは、自らの行動を正しいと信じきり巧みな話術で政府の人々の心に付け入っている、八方美人で慇懃無礼なキャラクターだ。前述した山本が持つ“自信”が、良い感じに“鼻持ちならなさ”もある役柄に転換しているからこそのハマり役と言えるのではないか。

 それでいて、メフィラスはただ人身掌握術に長けているだけでもない。交渉時に自分の信念を「私の好きな言葉です」と付け加えながら言っており、それは機械的な物言いであると同時に、なんとも言えない人間臭さも感じて、やはり好きにならざるを得ないのだ。その劇中の好きな言葉をあげてみよう。

<メフィラスの好きな言葉>
・郷に入っては郷に従う
・善は急げ
・備えあれば憂いなし
・呉越同舟
(その他、「世の中信用第一ですから」とも言っている)

 いずれも、物事や人間関係を円滑に進めることを善しとする言葉だ。メフィラスが人間の文化を学び、そこから最適な道を見つけようとする“勉強家”な一面も垣間見える。さらに、メフィラスは以下の「苦手な言葉」もあげている。

<メフィラスの苦手な言葉>
・目的のためなら手段を選ばない
・捲土重来

 どちらも、円滑に運ぶ物事や人間関係の不穏分子となる存在を指している言葉だ。だが、「嫌い」ではなく「苦手」と言っていることから、「いつかは好きになれるかもしれない」という“歩み寄り”も感じさせる。実際に、敵同士になりそうなウルトラマンへ「呉越同舟」という言葉も使い、やはりお互いにとって最良の選択を探すような姿勢も見て取れるのだ。

斎藤工が山本耕史の魅力を際立たせた

 とはいえ、メフィラスはやはり人間の脅威となる敵であるし、政府に自分を上位的な存在として認めさせようとするなど、人間と対等な立場で接しようとするウルトラマンとは価値観の相違がある。

 両者の違いがわかりやすく表れているのは、ブランコに乗るシーンだろう。メフィラスはブランコを楽しそうに漕いでいるが、斎藤工演じる神永新二ことウルトラマンは動かずマジメに対話を続けている。それはお互いの人間への接し方の姿勢そのもののようだ。この時、メフィラスが黒ずくめのスーツであるのに対し、神永が白シャツで黒ズボンであることは、前者が“真っ黒”な企みをしているのに対し、後者が人間と外星人の両者を取り持つ中立的な立場であることを示していたのかもしれない。

 また、メフィラスがほぼ45度の角度の礼で政府のお偉いさんを迎えるのに対し、神永が軽く頷く程度であるが真摯に謝っているように見えるのも対照的だ。やはりメフィラスは“見た目や形”を常に優先しており、だからこその慇懃無礼さや鼻持ちならさがあるように思える。

 そして、クライマックスで神永がこれから敵と戦う時に告げた言葉は「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」だった。これも、先ほどのメフィラスの賢しさを表すかのような「好きな言葉」とは相対する、ヒーローであるウルトラマンの「どんなことでも強い意志をもってやれば成就する」という信念そのものを体現した言葉だ。

 このように、山本演じるメフィラスと、斎藤演じる神永ことウルトラマンは、あらゆるところで対照的なキャラクター付けがされている。これまで観客はウルトラマンの寡黙で社交性がないが人間に真摯に向き合うキャラクターを追ってきており、それとは正反対な性質を持つメフィラスが表れたことで、彼のことも気になってしまうという構図もあるのではないか。

 両者が別ベクトルの魅力を放っているからこそ、観客としても彼らの問答が気になるし、どちらにも肩入れをしたくなる。斎藤が誠実なキャラクターを見事に体現していることにより、さらに山本の魅力が際立ったと言ってもいいだろう。

 最後に余談だが、メフィラスが居酒屋の会計時に財布の中身をちょっと見てから、「割り勘でいいか」と聞くシーンも大好きだ。メフィラスばかりが飲み食いをしていて、神永の方は全然飲んでいないように見えていたので不公平に思えるし、そもそも財布の中身を見たのも“フリ”で初めから自分が多く出す意志なんてないのでは? とも思える。もちろん割り勘は人間の真っ当な文化であるのだが、それを臆面もなく利用してまえる様や、転じて「やっぱり信用ならないしズルいなこいつ」という印象さえも、山本のおかげで魅力的に映ってしまうので、なんだか悔しい。

■公開情報
『シン・ウルトラマン』
全国公開中
出演:斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松 了、嶋田久作ほか
企画・脚本:庵野秀明
監督:樋口真嗣
准監督:尾上克郎
副監督:轟木一騎
監督補:摩砂雪
撮影:市川修、鈴木啓造
美術:林田裕至、佐久嶋依里
VFXスーパーバイザー:佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー:上田倫人
アニメーションスーパーバイザー:熊本周平
音楽:宮内國郎、鷺巣詩郎
主題歌:「M八七」 米津玄師
(c)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ
公式サイト:https://shin-ultraman.jp/
公式Twitter:@shin_ultraman

関連記事