いまだからこそ響く? 『フィフス・エレメント』が映し出していたリアリスティックな世界

 1990年代……それは、リュック・ベッソン監督が最も輝いた時期。日本ではベッソン監督の『グラン・ブルー』(1988年)がリバイバルされ、連日観客がつめかけ、大盛況となった。このヒットは、ハリウッド大作映画にないものを求め、小規模の劇場で公開されるアート系や個性派映画に人気が集まった、日本の「ミニシアターブーム」の形成に大きく寄与することとなった。

 さらにジャン・レノ、ナタリー・ポートマン主演で、孤独な殺し屋と少女の交流を描いた『レオン』(1994年)が大当たりし、「リュック・ベッソン」の名は世界的なものとなった。その成功を基に撮られたのが、23世紀を舞台にしたSF大作『フィフス・エレメント』(1997年)だった。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのベッソンの黄金期のなかで撮られたという意味で、象徴的な一作といえる。

 そんな『フィフス・エレメント』の4Kニューマスター版UHD/Blu-ray が、2022年4月発売の『レオン 完全版/オリジナル版』4Kレストアに先駆け、リリースされる。ここでは、本作『フィフス・エレメント』の内容をもう一度振り返りながら、いまだからこそ楽しめる部分にフォーカスしていきたい。

 『レオン』で一気に注目されたベッソン監督の次作ということで、大勢のファンに注目されていた本作。20代になって間もないミラ・ジョヴォヴィッチ演じる“地球の危機を救う鍵”となる女性と、彼女を守る凄腕の元軍人役のブルース・ウィリスの関係は、『レオン』を彷彿とさせるものがあった。結果的に、世界的なヒットによって大きな興行的成功を納めることになった本作だが、一方で従来のファンを困惑させたのも事実だ。

 それはもともと本作が、ベッソン監督が16歳の頃に夢想した物語を基にしているからという事情があるだろう。『スター・ウォーズ』シリーズのような宇宙でのドッグファイトや、個性的な異星人たちとの交流、未来都市の生活風景やアジア風屋台を見せる『ブレードランナー』(1982年)の要素、さらにフランスのコミック『BD(ベーデー)』のSF作品のような雰囲気が加えられ、ユーモアが散りばめられた明快でポップな内容は、『レオン』や『ニキータ』(1990年)のようなシリアスな暴力描写とは一線を画すものだ。このハリウッド娯楽大作のような分かりやすさは、当時のミニシアターブームに求められていたものとズレていたのかもしれない。

 だが近年、ベッソン監督の新たなSF大作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』(2017年)の内容が映画ファンの間で話題となったように、評価の方向性は現在変化してきているといえるのではないか。それは、マーベル・スタジオのSF大作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)が大ヒットした影響からも理解できる。

 ジャン・コクトーの著作になぞらえて、ジャン=ジャック・ベネックスやレオス・カラックスとともに「恐るべき子供たち」と呼ばれ、フランス映画の新しい幕開けを象徴していたリュック・ベッソン。彼はそのなかでも、フランスの映像作家には珍しくアクションやエンターテインメントへの志向が強く、ハリウッド向きとも言われてきた。そんな彼が少年の頃の夢を叶え、ハリウッドの世界的アクションスターのブルース・ウィリスを迎えて、宇宙や未来都市を舞台に、思う存分イマジネーションを開花させたのである。Blu-rayの特典映像では、撮影現場で真剣に演出している姿とともに、セットの中ではしゃいでいる監督の姿を見ることができる。

 統一宇宙連合軍の元パイロットで、23世紀ニューヨークのタクシー運転手という、主人公コーベン・ダラスの役には、さまざまなスター俳優が検討されたが、ブルース・ウィリスに行き着いたのは正解だった。一見、世界観とは不釣り合いにも感じられるウィリスだが、それがむしろ地に足のついた印象を作品に与え、荒唐無稽な展開に説得力を与えているのである。鮮やかなオレンジ色のノースリーブも、意外によく似合っている。

 この時期のウィリスは、これからのキャリアを考え、アクション・スターからの脱皮を狙っていたところがある。本作は見せ場として、『ダイ・ハード』シリーズにおけるテロリストの攻撃を想起させるアクションが用意されているが、同時に恋愛感情や優しさを強調した、アクション俳優として名を馳せて以降のパブリック・イメージを覆すような演技が印象的だ。残念ながらブルース・ウィリスは俳優引退を表明した。この時期の、ベテラン俳優としての余裕と、まだ若々しさが残る魅力的な姿を、目に焼き付けておきたい。

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