爆発、ブチギレ、コテコテのギャグ 『アンビュランス』はマイケル・ベイ円熟期の快作だ!
走れ光速のベイやん救急車~♪ というわけで『アンビュランス』(2022年)だ。とある兄弟が銀行強盗でミスって救急車を乗っ取って、警察相手にLAの街で壮絶な追いかけっこに突撃する。このシンプル極まりないストーリーを、ハリウッドきっての超ハイテンション野郎、ベイやんことマイケル・ベイ監督がノンストップアクション映画に仕上げた。
まず最初に断るが、これは万人にはオススメできない。劇中の大半が車に乗って爆走しているシーンなうえに、細かいカット割りと手持ちカメラの多用、そしてドローン撮影で画面がグルグル回るので、酔う可能性がある。実際、私はシンプルに目が回って、少し酔ってしまった(まぁ、私は車を運転していても酔うほどに弱い体なので、たいがいの人は平気なのかもしれないが)。しかし、その辺が平気で、なおかつアッパー極まりない2時間ちょっとを体感したいなら、この映画は強くオススメしたい。
本作を監督したベイやんといえば、『トランスフォーマー』(2007年~)シリーズで有名だが、一方で脳筋クライムサスペンスの金字塔『ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金』(2013年)や、戦場アクションの傑作『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(2016年)など、個性的なオリジナル作品も発表し続けている。そんなベイやんの作風を一言でいえば、とにかく「やかましい」ことだ。
まずベイやんの映画は、とにかく画面がやかましい。MV出身らしいテッカテカの画が連打される。男も女も異様に汗をかいてテッカテカであり、出てくる小道具も蛍光色でテッカテカ。テッカテカの人と物がせわしなく激しく細かいカット割りで描かれ、やかましいことこのうえない。そして、何はともあれ爆発である。爆発と銃撃戦こそ映画の華、そう言わんばかりに、とにかく銃を撃ちまくって爆発が起きまくる。そのうえカメラもグルグルと回る。しかも今回はドローン撮影が多用されていて、ベイやん史上でも過去最高にトリッキーなカメラ移動が連発する。もうこれだけで十分にやかましいのだが、登場人物は常にブチギレて罵倒し合い、ド派手な音楽がバンバン入り、唐突かつ陰惨な人体損壊が炸裂し、コテコテのギャグがブチ込まれるのだ。まさに混乱そのもの。それがベイやんの映画である。小津安二郎が観たら発狂するかもしれないが、それがベイやん映画の魅力であり、私がベイやんの映画を愛してやまない理由だ。本作はそんなベイやんの魅力があふれ出している。
爆走する救急車、爆発、銃撃、怒鳴り合う登場人物たち。そしてグルングルン回るカメラと、吹き出したあとに「よしなさい」とツッコミを入れたくなる悪趣味なギャグのつるべ打ち。一応「重傷を負った警察官を救急車ごと人質に取った」というシチュエーションなのだが、「今ので警察官は死んだだろ」と確信する瞬間が何度もあった。特に中盤で炸裂するブラック・ジャック先生もビックリな手術シーンの結末は、今年のベストモーメント候補だ。笑っていいのかビビっていいのか分からない、神がかった瞬間だったと断言する(救急車に“あるもの”が刺さるシーンも忘れがたい)。それでいて最後はキチンとホロ苦い人情もの、あるいはプロフェッショナル仕事の流儀ものとして話を落としてくれる。ついでにアッパーで突き進んだ本編に対して、驚くほどアッサリと終わるエンドロールで逆に強烈な余韻を残してくれた。ところどころに散りばめられたセルフパロディも楽しい。