オーストラリア史上最悪の銃乱射事件はなぜ起きた? 『ニトラム』J・カーゼル監督に聞く

 オーストラリア史上最悪と呼ばれる銃乱射事件の犯人を描いた映画『ニトラム/NITRAM』が3月25日より公開中だ。

 本作は、1996年4月28日、オーストラリアの世界遺産でもある観光地ポート・アーサー流刑場跡で起こった無差別銃乱射事件の犯人を描いたサスペンス。主人公のニトラムを『ゲット・アウト』『スリー・ビルボード』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが演じ、シッチェス・カタロニア映画祭などで主演男優賞を受賞した。

 監督を務めたのは、『マクベス』(2015年)、『アサシン クリード』(2017年)、『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』(2021年)などの作品を手がけてきたジャスティン・カーゼル。ハリウッドでも活躍するカーゼル監督に、母国オーストラリアで映画を作り続ける理由や、本作を通して伝えたかったメッセージを聞いた。

「ケイレブには普通の人とは違う、際立った存在感がある」

ーー前作『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ではネッド・ケリー、今作『ニトラム/NITRAM』ではポートアーサー事件の犯人をモデルにしていますが、実在の人物をモデルに映画を作る際、どういう点を意識していますか?

ジャスティン・カーゼル(以下、カーゼル):実は、『ニトラム/NITRAM』は前作以上に難しい作業になりました。ネッド・ケリーはこれまでにたくさんの小説や映画が作られてきたので、その神話をどこまで解体できるのかという挑戦でした。今作の題材になった事件は、近年で最も悲惨な犯罪のひとつで、多くの人が当時のことを覚えています。だから、人物描写についてはできる限り正確にしなければいけません。その上で、ドラマとして語りやすくなるような視点も意識して作りました。

ーーケイレブ・ランドリー・ジョーンズをキャスティングした理由は何だったのでしょうか?

カーゼル:実は、ケイレブとモデルとなった人物には、外見的に似ている部分があると思ったんです。もちろんそれは理由の一つで、キャスティングした一番の理由は彼が素晴らしい俳優だからですが(笑)。ケイレブには普通の人とは違う、際立った存在感があると感じていて、本作にはそれがとても重要だと思いました。オーストラリアの、特に海岸部で育つと、元型になる男性像というものがあるんです。男性は皆、サーフカルチャーに憧れていて、ブロンドを長く伸ばし、日に焼けた肌をしています。ケイレブも長髪でブロンドですが、肌は青白くて、どれだけ努力しても典型的なオーストラリア男性には近づけません。その点がニトラムというキャラクターに合っていると感じました。

ーー前作で主演を務めたジョージ・マッケイは、あなたから“ネッド・ケリーになるためのリスト”をもらったと取材で答えていました。今回もそのような“リスト”はあったのでしょうか。

カーゼル:ケイレブにもリストを渡しました。そこに挙げたのは、「とにかくオーストラリアのソープドラマ、映画、音楽にたくさん触れること」「90年代のオーストラリアについて理解すること」。そして、社会から孤立した状態を体感してもらうための課題も用意しました。周囲が自分のことを不信感に満ちた目で見ていたらどのように感じるか、社会不適合であるとはどういうことかを経験してほしかったんです。

ーーあなたの作品では、主人公の母親が大きな役割を担っている印象があります。

カーゼル:私は以前から、母と息子の関係に興味があったんです。脚本を担当したショーン(・グラント)も私も、とても男性性の強い父親のもとで育ちました。だから、私たちの映画では、主人公と母親との関係が一番強いんです。

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