“リッチな体験”が映画化成功のカギに? 2021年を振り返るアニメ評論家座談会【後編】

実写版『東京リベンジャーズ』がヒットした背景

藤津:あと僕がよく言うことなんですが、アニメ・漫画の実写化は「現実の風景を撮って成立する作品」だったら成功率が上がる。だからSFなどのプロダクションデザインにお金をかけないといけないものはややこしいわけです。実景をできるだけ使えたり、『るろうに剣心』みたいに今までの時代劇の蓄積みたいなのがあればいいんですが、SF映画やファンタジーになると途端に難しくなる。

『東京リベンジャーズ』(c)和久井健/講談社 (c)2020 映画「東京リベンジャーズ」製作委員会

杉本:そういう意味では2021年の実写映画化作品の最大ヒット作は『東京リベンジャーズ』で、まさに実景が使われていますね。でも、プロダクションデザインの問題は日本映画の予算が足りないということですよね。

藤津:そうなんですよ。逆に言うと、アニメの強みは技術力でそこを補うことができるという点。

杉本:漫画レベルのプロダクションデザインを実写で再現するのは韓国ならできるようになってきているように思いますね。韓国はウェブトゥーンが盛んですから原作もおそらくたくさんあるし、ウェブトゥーンの原作を基にこれからたくさんの作品をどんどん投入してくると思います、というかすでに結構あります。なかなか日本の実写ではそれが難しくて、今アニメでやっているということだと思うんですが、アニメでどこまでグローバル市場で戦えるかというのは気になるところです。話が戻りますが、『東京リベンジャーズ』のヒットの背景にはアニメのヒットもあって、ちょうどいいタイミングの公開でしたよね。もともと2020年10月公開予定だったんですけれど、それがコロナ禍の影響で2021年7月公開になり、4月からアニメが始まって1クール目が終わるくらいの盛り上がっていたタイミングで映画が公開されて。その流れに乗れたんじゃないかなと思いますね。

藤津:いろんな事情で公開時期がそろうことはあまりないですが、僕の印象だと『ちはやふる』くらいから割と企画自体で2本立てという感じで情報を動かしているんじゃないかと。ある種のキャラクタービジネスとして、アニメ・実写の両方で展開するということは増えている気はします。

杉本:あとは2022年の期待の作品ですが、藤津さんはなにかございますか?

『グッバイ、ドン・グリーズ!』(c)Goodbye,DonGlees Partners

藤津:『犬王』と『グッバイ、ドン・グリーズ!』ですかね。僕は東京国際映画祭で両方とも観ることができたんですが、両方ともすごく面白いです。『犬王』は音楽映画で、しかも日本でもこれまであまり扱ってこなかったような過去を舞台にした、一種の時代劇としての側面もある。そして、なにより湯浅さんらしいフィルムとして出来上がっている。『DEVILMAN crybaby』や『映像研には手を出すな!』のように原作に寄り添って作っているのとはまた違う迫力ががあるので注目です。『グッバイ、ドン・グリーズ!』もいしづかあつこ監督自身が脚本を書いているから、演出家らしい脚本なんですよ。独特の省略も多いし、冒頭からすごく印象的な絵から始まる。登場人物も少ない小さな世界を描いているのに、不思議なスケールの広さを感じさせる。

杉本:僕もいしづかあつこ監督には非常に期待をしています。『宇宙よりも遠い場所』が有名な作品ですが、僕は中でもその前の『ノーゲーム・ノーライフ』も大好きで、あの作品で、「この監督は少し違う」と思わされました。オリジナル作品ということで非常に期待しています。あとは新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』もあります。ちなみに夏じゃなくて、秋公開なんですよね。

『すずめの戸締まり』(c)2022 「すずめの戸締まり」製作委員会

藤津:新海監督は、ギリギリまでプロダクションを完成させると言っていたので、そういう意味ですこし間を持たせて、秋にしているのかもしれませんね。もしかしたら、夏に大きな作品が実はもう1つあるのではと勝手に期待しています。宮崎駿監督の新作もだいぶできているという噂もあります。来年かどうかは分からないですが……。

杉本:最近の映画の興行を見ていると、夏休みの映画が必ずしもその年のナンバーワンになっていないんですよ。2020年の『鬼滅の刃』も秋公開でしたよね。2019年は新海さんの『天気の子』でしたが、その前は11月の『ボヘミアン・ラプソディ』。2017年は4月公開の『美女と野獣』。過去5年で新海監督以外で夏休み映画で年間トップをとった作品はないんですよ。それはもう夏休みにこだわらなくても熱量の高いファンを獲得できればいつ公開してもいいということになっているのかもしれない。

藤津:アニメの宣伝を見ていても、結構今は中押しが大事で。あと初速が悪くても、ロングランでヒットを出せる作品は、多くの人の印象に残っていろんな形で次の一手が打てる形で残るということがあったり。『エヴァンゲリオン』も最後まで特典冊子を配って、100億円に迫るということがありました。

杉本:相当手を打っていましたよね。監督や声優さんも舞台挨拶にも出たり。

藤津:そうですね。そういう公開後のプロモーションが大事になっていると思います。

杉本:その意味では、秋公開でも十分稼げるという自信が東宝サイドにもあるということかもしれない。

藤津:だから300館〜500館の規模で公開をして、そのあと館数をちょっとずつ絞りつつも正月を超えたいという意味で秋かなと。そうすると、シルバーウィークとお正月の2回山場ができる興行をイメージしているのかなと僕は思いましたね。

杉本:夏は大作、話題作が多いのでスクリーンの占有率を考えているのかもしれないとも思いました。『鬼滅の刃』の大成功は、シネコンのスクリーンを独占できたことも大きかったですよね。この手法が、今後定着するのかもしれない。『名探偵コナン』『エヴァンゲリオン』『呪術廻戦』もスクリーン占有率がすごかったじゃないですか。これを多分、新海監督の新作でもやりたいんじゃないですかね。それをやるには1番メジャー作品が手薄な時期である秋にやるという戦略かもしれない。単純に制作が遅れているだけかもしれませんが(笑)。

藤津:ほかにも、荒木哲郎監督の『バブル』も気になりますし、磯光雄監督の『地球外少年少女』も面白いです。

杉本:今年も楽しみな作品がたくさんありそうですね。2021年の作家の時代はまだまだ続きそうですね。

藤津:そうなっていくといいなと思っています。

参考

※1 https://www.netflix.shop/pages/jordan-bentley

前編:若手とベテラン双方の活躍光る豊作の年 2021年を振り返るアニメ評論家座談会【前編】

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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