神山健治が大災厄下で描いたもの WOWOWオリジナルアニメ『永遠の831』を観て
『永遠の831』では、時間停止能力がSF要素としてキーになっている。『東京リベンジャーズ』や『Re:ゼロから始める異世界生活』、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』など、タイムリープによって“やり直し”を謀る作品は数多く、何度も失敗を繰り返した後にやっと目指す未来や現在を手に入れることができる。しかし時間停止能力は、今を変えることはできず、目の前にある困難に対処するしかできない。神山監督が監督・脚本を手がけた『009 RE:CYBORG』の島村ジョーが持つ能力・加速装置の極端なバージョンくらいの感覚だろう。『永遠の831』でも“未曾有の大災厄”以降のニホンをやり直すことはできず、自分たちの手で今を正すことしかできない。
では、なぜ神山監督は、決して万能ではない時間停止という能力を取り入れたのか。『永遠の831』において時間停止は、止まってしまっているのはニホンというクニだけではないということの暗喩でもあるのかもしれない。スズシロウは高校時代、友人から謂れのない罪を押しつけられ、その友人の自殺に直面した際に時間を止める能力が発現した。なずなもまた、ある出来事をきっかけに時間が停止した過去があった。強烈なトラウマを抱えた2人の時間は、その瞬間から止まっていたと言えるだろう。
「時間が止まる」という比喩は、目の前の事実を受け入れることができず、それを乗り越えることができないことを指す時に使われることが多い。スズシロウとなずなのように実際に時間が止まらないにしても、時間が止まったままになってしまっている人は決して少なくはないだろう。つまりスズシロウとなずなは決して特別な存在ではなく、視聴者自身であり、身の回りにいる誰かである。永遠の8月31日は誰にでも起こりうることであり、神山監督の巧妙なレトリックによって、誰もが傍観者ではいられなくなるのだ。
スズシロウとなずなが防波堤の上で青い空を見つめる、ティザービジュアルは実に印象的。2人の眼差しの先に何が見えているのか。『永遠の831』を見終えて改めて見てみると、2人の表情は、何か重大な決意を胸に秘めた大人びた表情に見えてくる。
3月18日からは、全国の劇場での公開も決定している本作。大スクリーンかつ5.1chサラウンドでの公開でより『永遠の831』の世界観に触れてほしい。
■WOWOWオンデマンドについて
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■放送・配信情報
WOWOW開局30周年記念新作長編アニメ『永遠の831』
WOWOWオンデマンドにて配信中
監督・脚本:神山健治
アニメーション制作:CRAFTAR
キャスト:
浅野スズシロウ:斉藤壮馬
橋本なずな:M・A・O
亜川芹:興津和幸
アキナ:日笠陽子
室戸:大塚明夫
双六:粟津貴嗣
坂田兄弟(兄):近藤孝行
坂田兄弟(弟):岩崎諒太
ドンキ:山下誠一郎
各務恭子:五十嵐麗
音楽:椎名豪
主題歌:angela「ひとひらの未来」
オープニングテーマ:カノエラナ「キンギョバチ」
■公開情報
WOWOW開局30周年記念新作長編アニメ『永遠の831』
3月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国劇場公開
製作著作・配給:WOWOW
上映時間:105分
(c)神山健治・CRAFTAR・WOWOW/「永遠の831」WOWOW
公式サイト:https://eienno831.com
公式Twitter:@eienno831