青木柚らによる和やかな会話劇 イヤードラマ『ぷく友』が描く、我々が求めていた“雑談”

『ぷく友』が描く求めていた“雑談”

 「コロナ禍」というものが始まって、丸2年になる。日常生活もすっかり2019年のものと変わり、特に仕事風景は同僚とともにあくせくしていたオフィスワークから、一人で過ごすリモートワークが普通になった。そんな日々の中で時折恋しくなるのは、あの仕事場で小休憩がてら交わしていた、同僚との何でもない“雑談”。自分がせずとも、誰かのどうでも良い会話を聞いていたい時があることに私たちは気づき、ラジオやポッドキャストを積極的に聞くようになったという人も少なくないはず。NUMAイヤードラマ『ぷく友』は、そういう意味でまさに求めていた“雑談”を切り取ったものだ。

 “ぷく友”とは、一服友達の略。俗に言う、タバコ仲間だ。飲み友、飲み仲間、飲みニケーションという造語があるように、タバコにもそういう、吸っている間に会話をする相手や、喫煙所でしか生まれないコミュニケーションというものがあるだろう。まさにそれを描くように、金髪の新入社員の安田くん(青木柚)、口は少しキツいが根は優しい牧田さん(秋元才加)、少し話し方に癖のある経理部部長の新庄さん(黒田大輔)が織りなす日常会話が、淡々と進んでいくのが本作だ。ただ、この“ただの会話”がこんなにも耳心地よく聞こえるのは、『過ぐる日のやまねこ』(2014年)や西加奈子原作映画『まく子』(2019年)の監督として知られる鶴岡慧子が脚本および演出を手がけたからだろう。

 第1話の冒頭から、流れてくる車の音や室外機の音など都会の音を響かせることで、私たちが浮かべる光景がビルの外階段の踊り場であることを示す演出に惹かれる。ただの喫煙所じゃなくて、外階段の踊り場というところにリアリティを感じてしまうのだ。あるある、私の会社の人も、冬は寒そうに(しかし根気強く)外に繋がる扉を押してはしばらく向こう側で一服している。私はタバコを吸わないので、その向こう側で起きている会話、彼らの過ごす時間を垣間見ることができなくて、ときどき「ズルいな」と思うことさえあった。そして『ぷく友』では、そんな彼らが「こんな会話してそうだな」というくらい、リアルな会話劇が繰り広げられる。演じる青木、秋元、黒田の声色や話し方、テンションも本当にちょうどいい。あからさまに演じているというより、素な感じでゆるく言葉を紡ぐという“演技”は、逆に技量のいるものだ。それを難なくこなす3人だからこその聞き心地だし、キャラクターの魅力が生まれるのだろう。新人の安田くんは徹夜明けで少し気だるそうにしていたり、新庄さんの絶妙な絡み方だったり、牧田さんはサバサバしているけど誰よりも面倒見が良い先輩だったり。「会社に一人はいるタイプ」の登場人物たちによる、ローなテンションの会話が聞いていて楽なのだ。コロナ禍の孤独を通して求めているのは、誰かが一方的に話してくる意識高い系の内容じゃなくて、こういう会話なのである。

 面白いのが、その何でもない会話から、徐々にそれぞれのキャラクターの人物像の輪郭が掴めていくことだ。私たちも実生活で、会話を通して相手の人となりを知っていく。その過程を第三者の目線で改めて捉えることで、やはり個人同士のコミュニケーションは、それがどんな内容であっても取り続けることが大事なのだなと理解する。そうでなければ、例えば安田くんが新庄さんを面倒くさがっていたら彼が自分と同じく自主映画制作をしていた過去も知ることができなかったし、牧田さんと安田くんが単なる上司と部下以上に仲良くなることもなかった。どんどんお互いを知っていくことで、実は離婚歴があったり、別れた彼女と未だ同棲しているというパーソナルな部分も共有してくれるほどの仲になる。特に会社の人とは、どこまで自分の話をすべきか距離感を常に注意しつつ、でももう少しぶっちゃけたり仲良くなりたいという人も少なくないのではないだろうか。逆に自分で必要以上に距離を置いてしまう人もいるはず。しかし、『ぷく友』の和やかな会話劇は、そんなふうに気にしすぎて社内交友を深めきれなかった自分に、少しだけ自ら会話をしかける勇気をくれる。いや、仕掛けたくなるのだ。「自分もこんなふうに雑談がしたい」と。

 そんな『ぷく友』も来週3月7日が最終回。他愛もない話が1話完結で続いているように見えて大軸の内容が続いているからこそ、彼らの雑談が最後、どこに行き着くのか今から気になって仕方ない。

■配信情報
『ぷく友』(全5話)
NUMAにて、2月7日(月)より毎週月曜1話ずつ配信中
出演:青木柚、秋元才加、黒田大輔
脚本・演出:鶴岡慧子
予告編:https://youtu.be/SHkcFPT3PK0
配信先:https://numa.jp.net/mob/cont/contShw.php?site=NM&cd=DSE00048

【NUMA】
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NUMAプレミアム:月額(聴き放題)580円(税込)
※毎週 月・水・金 コンテンツ更新予定

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