『湯あがりスケッチ』室井滋×小川紗良の絶妙なテンポ “孤独”を癒やす銭湯の効能
タカラ湯で働く日々も日常になった。穂波(小川紗良)の生活には新たな人間関係が生まれ、一見順風満帆のようにも見える。しかし人と人が交われば、温かい優しさだけでなく些細な摩擦が生まれることも。穂波はひょんなことから仲を深めた佐和子(室井滋)との交流を通して、あることを思いつくのだった。ひかりTVのオリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』の第4話には、銭湯が持つもうひとつの「効能」が描かれた。
今や当たり前のように側にいる熊谷(森崎ウィン)やゆづ葉(新谷ゆづみ)。穂波にとっての穏やかな日々は続いていた。何気ない会話に笑い、仕事をこなし、何ひとつ問題のない生活を送っているかに見えた。だが、ふとしたことで日常はバランスを崩すもの。時にチクリと心に刺さる経験が訪れることだってあるのだ。
穂波はタカラ湯を訪れる客・佐和子と何気ない会話をきっかけに打ち解けていった。しかし佐和子のコミュニケーションは次第にエスカレート。長時間にわたって穂波に話しかけ続け、効能のないタカラ湯のお湯が「健康に良い」などと根拠のない情報を他の客に吹聴してしまう。客の中には、そんな佐和子を避けるかのように来なくなってしまう者も。ある日、穂波は佐和子にやんわりとその事実を伝えようと試みる。しかしすっかり佐和子のペースに巻き込まれてしまい、困惑していた。だがそこに、ゆづ葉が現れ、佐和子の行動を「迷惑」だとはっきり伝えてしまう。オブラートに包むことなく物申したことで、自分の悪気ない行動が迷惑になっていたと知った佐和子は、ぱたりとタカラ湯から姿を消してしまった。
温かな心の交流、人と交わることの愛しさ、輝き。これまで「銭湯」を通してこうした優しい日常が描かれてきた『湯あがりスケッチ』だが、第4話では心が痛む描写も。銭湯にかかわることが日々の仕事となれば、時に理不尽な思いをしたり、自分の対応に自信が持てないこともあるだろう。佐和子との交流は、まさに、穂波にとってそんな難しい対応を迫られる局面をもたらした。
佐和子を演じた室井滋は、愛嬌たっぷりの「悪気のなさ」と、時に穂波を困惑させてしまう押しの強さを絶妙なテンポで表現する。この会話のテンポに我々もまた圧倒され、どこかで経験したような、暖かさと居心地の悪さが同居する感覚にのみ込まれていくのだ。室井が産みだす「佐和子」像は、確かにどの町にもいるものなのだと深く頷かずにはいられない。