オダギリジョーにそばにいてほしい 『カムカムエヴリバディ』を支える安心感

 オダギリはここまでの一連の変化を、緩急自在に演じていたと思う。基本的には“緩”だが、トランペットが吹けず自暴自棄になっていた時期は完全に“急”のモード。るいと結婚し、父となったいまでは想像もつかない荒々しい口調や振る舞いはもちろんのこと、あの淀んだ目の色は忘れられない。「人はここまで堕ちるのか……」という闇落ちぶりを体現していた。しかし、るいを突き放すために嘘をつく際の唇の震えの表現が、唯一の救いだったという視聴者は多いのではないだろうか。そしてここでるいとジョーの立場が逆転することで、るいは主体性を得て、物語は大きく動き出した。るいの成長の瞬間を体現した深津の演技の見事さあってのことだが、一方で、彼女の演技をオダギリが引き出したともいえると思う。現在のジョーはお茶目な父親となり、“緩”モード全開。朝のお茶の間を温めているところだ。変わらずるいや、成長したひなた(川栄李奈)をサポートする演技にオダギリは徹している。このバランス感覚が素晴らしい。

『大怪獣のあとしまつ』(c)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会

 そんな『カムカム』でのオダギリの姿から目が離せない一方で、現在は出演した映画『大怪獣のあとしまつ』が公開中だ。怪獣の死体処理に人々が右往左往するさまを描いた同作で彼が演じているのは、爆破のエキスパートである男・通称“ブルース”。コメディ色が濃厚な作品だが、どちらかといえばオダギリはシリアスなパートを担っているように思う。『カムカム』のジョーとはまるで違い、ブルースは完全にフィクショナルなキャラクターだ。それも、非常に突飛なキャラクターである。監督を務めた三木聡による『時効警察』シリーズ(テレビ朝日系)でオダギリは長きに渡りタッグを組んでおり、過去には映画『転々』(2007年)でも主演を務めている。日本映画界を牽引する俳優たちが大集結した特撮コメディに彼が登場することは当然の流れだったのだろう。ジョーとブルースの違いに目を向けてみるのも一興である。

 さて、最後は『カムカム』の話で締めくくりたい。すでに物語はるいから、川栄演じる“ひなた”にバトンが手渡されている。しかし、ジョーにはいつまでもいてほしい。娘のひなたにとってそうであるように、彼がそばにいると安心するーー本作におけるオダギリジョーは、そんな存在なのである。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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