『ボバ・フェット』が引き継いだ、ジョージ・ルーカスの“新たな映画を目指す”という意志
そんな『マンダロリアン』の姿勢が継続する本シリーズ『ボバ・フェット』の物語は、『スター・ウォーズ』旧3部作の最終作『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』にて、砂の惑星タトゥイーンの巨大生物サルラックに、ボバが飲み込まれた直後からスタートする。なんとサルラックは、千年もの長い時間をかけて食物の栄養を吸収していくという、悪魔のような設定を持っている。だから、生きたまま飲み込まれた者にとっては、ゆっくりと酸で溶かされてゆく拷問のような時間が続くこととなる。しかも一説には、食われた者は、その意識が体内に融合し残存し続けるために、苦痛が数千年続くという話もある。なんということだ……。
『エピソード6』において、凄腕の賞金稼ぎであり人気キャラクターであったボバが、牧歌的といえるほどにあっさりサルラックに食われてしまうという描写は、たしかにショッキングだった。しかしそれが、『スター・ウォーズ』世界の無常感、緊張感を作中に与えていたところがある。その意味で旧シリーズのファンは、ボバの話が観たいという感情はありながら、シリーズの意味合いが変わってしまったことについて複雑な感情を抱くことになるかもしれない。
ともあれ、ボバがサルラックの体内から奇跡の脱出を果たすというのが、この度塗り直された歴史となったことは事実である。しかし、その代償は小さくなく、ボバは瀕死の状態になっているところを、廃品回収業を営むジャワ族に身ぐるみ剥がされ、さらにはタスケン・レイダーの捕虜になってしまう。タスケンとは、シリーズに幾度となく登場し、他民族を襲撃したり捕獲して監禁するなど、好戦的で残忍な描かれ方がされてきた。
しかし、勇敢で戦いのスキルのあるボバが、タスケンの一員の危機を救ったことで、次第に彼はタスケンたちと交流を結びコミュニティに受け入れられ始める。一人きりだったボバに、助け合う仲間ができたのだ。この経験から、ボバは仲間のあたたかさだけでなく、集団の強さを知ることとなる。
そんな、ボバの必死のサバイバルとともに描かれるのが、その後しばらく経ってボバがタトゥイーンでギャング団を組織し、様々な勢力と縄張り争いをするという物語だ。そこで判明するのは、『エピソード6』で最期を遂げた、タトゥイーンの残忍な顔役ジャバ・ザ・ハットが住んでいた城を奪っていたという事実だ。有能な賞金稼ぎフェネック・シャンド(ミンナ・ウェン)や、暴走族の若者たちを仲間に引き入れるなど、ボバは生き方を変えることで、新たな力を手にタトゥイーンの暗黒社会を生きるようになっていく。
第5話以降にはサプライズがある。なんと、マンダロリアンとザ・チャイルドの、その後の展開が描かれていくのである。そればかりか、続くエピソードでは、強大なフォースを操る素質を持つザ・チャイルドを、ある重要キャラクターが育てていくシーンまであるのだ。『ボバ・フェット』を観ていたと思ったら、いつの間にか『マンダロリアン』のエピソードになり、さらに異なる物語までも進行していく……。これは、シリーズのファンにとって、嬉しい混乱である。
この状況は同時に、評判の良い『マンダロリアン』が、『スター・ウォーズ』シリーズの本流に近い存在になり得る可能性を示しているといえるかもしれない。ちなみに、『マンダロリアン』シーズン3は、2022年5月配信予定の『オビ=ワン・ケノービ』の後に配信される見込みとなっている。
『ボバ・フェット』で描かれるザ・チャイルドのエピソードで興味深いのは、あるキャラクターがザ・チャイルドに、これから歩む道を、アイテムを二つ並べて選ばせるという場面だった。この箇所は、『子連れ狼』で、主人公・拝一刀が、幼い息子の大五郎に刀と鞠(まり)のどちらかを選ばせることで、その後の運命を自身に決めさせるというエピソードにそっくりだ。『マンダロリアン』は、これまでも『子連れ狼』からの影響を感じるシリーズであったが、まさにその通りのシーンが展開されることとなった。
さらに感慨深いといえるのが、『マンダロリアン』でも登場した、モス・アイズリー港の気骨ある整備士ペリ・モットー(エイミー・セダリス)が再び現れ、整備の腕を振るうシーンである。彼女がマンダロリアンのために修理・改造するのは、なんと『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)で、ナブーの王室警備隊や、幼い頃のアナキン・スカイウォーカーが乗り込んだ、あの懐かしいスターファイター(高速戦闘機)だった。