『ギャング・オブ・アメリカ』からあふれる懐かしのロマン 全編に響く“カイテルASMR”も
もちろんカイテルと対峙する、不惑の中年作家役のサム・ワーシントンもいい。あの「そのへんのアンちゃん」感が、凡人代表という今回の役割にあっている。映画は2人の会話劇で進んでいくのだが、カイテル演じるランスキーが要所でイイことを言うのである。話が進むにつれ、全く違う世界の人間に思えた2人が(主に結婚生活などで)実は似たような苦悩を過ごしたと浮き上がってくるのだ。作家と元ギャングという関係性を超えて、2人の男が人生の先輩・後輩になっていく構図は面白い。
しかし最初に書いた通り、本作はギャング映画や人間ドラマであると同時に、『徳川家埋蔵金』映画だ。現実に存在する伝説=ランスキーの3億ドルの隠し財産にまつわる映画なのである。そんなわけで途中からFBIが介入してきて、物語は一種の宝探し映画へシフトしていく。このくだりは若干の迷走感もあるのも事実だが、結末を見れば「ああ、単純にこれがやりたかったんだ」と合点がいくだろう。もうこうなってくるとロマンですよね、ロマン。徳川埋蔵金の特番で、地下を探るダウジング棒や超音波を発する機械の反応を真剣に見ていた頃を思い出しまたよ、僕は。
そんなわけで本作は、マイヤー・ランスキーという実在の人物のスケールのデカすぎる逸話や、3億ドルの都市伝説を題材にした歴史ミステリーとしても楽しめる1本だと言えよう。もちろん仁義と掟の間で揺れる人間模様や、崩壊していく家族ドラマなど、ギャング映画のツボも取りに行っている。何より元フィクサーという底知れぬ役を演じたカイテル、どこからどう見ても凡人代表なサム・ワーシントン、この2人の安定感あふれる好演には拍手を送りたい。いや、カイテルが上手いのは当然なのですが、サム・ワーシントンがイイ味を出す俳優になってきたのが嬉しいんですよ。中年の燻りがちゃんと出ていました。今後は彼が主演で『アバター』(2009年)の続編が何本も出来るそうですが、もう安心感しかないですね。永遠のアメリカのアンちゃんですよ。ギャング映画の生きる伝説ハーヴェイ・カイテルと、永遠のアンちゃんサム・ワーシントンの揃い踏み、これだけでも本作には十分な魅力があるといえるだろう。
■公開情報
『ギャング・オブ・アメリカ』
2月4日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督・脚本:エタン・ロッカウェイ
出演:ハーヴェイ・カイテル、サム・ワーシントン、ジョン・マガロ
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
2021年/アメリカ映画/英語/119分/シネマスコープ/字幕:草刈かおり/原題:Lansky/R15+
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公式サイト:gang-of-america.com