宇野維正の興行ランキング一刀両断!

『ハウス・オブ・グッチ』や『クライ・マッチョ』 「大人向け劇場公開作品」の不安な未来

 先週末の動員ランキングは『コンフィデンスマンJP 英雄編』が土日2日間で動員33万1000人、興収4億7100万円をあげて初登場1位となった。土日2日間の興収で比較すると、2位の『劇場版 呪術廻戦 0』が4億5400万円、3位の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が4億2600万円と、僅差でひしめき合っている。一昨年3月にパンデミック期に入って以降、突発的にヒット作が現れても一つの作品に観客が集中する傾向があったが、久々に外国映画を含む複数のヒット作がトップ争いを繰り広げるという、映画興行にとって2022年は幸先のいいスタートになった。

 もっとも、既報の通り政府は昨日(1月19日)、新型コロナウイルスの新たな変異株、オミクロン株の感染急拡大を受けて1都12県にまん延防止等重点措置の適用を決定。期間は今週金曜日の21日から2月13日までの、4回の週末を含めた24日間となる。昨年までのまん延防止等重点措置期間と同様に、座席販売数や場内飲食などに関する映画館の対応は各自治体やチェーンごとに異なると予想される。また、夜帯の上映の集客に関しては、飲食店の休業や閉店時間の前倒しと連動して少なからず悪影響もあるだろう。ただ、観客の心理的影響に関してはどうなのだろう? ここ1年余りの状況を見てると「既に映画館に戻ってきた客は戻ってきたし、戻ってこない客は戻ってこない」「イベント性の高い大作や話題作にはそれとは関係なく観客は集まる」ので、もうあまり一喜一憂する必要はないのかもしれない。

 実は、先述した「パンデミック期に入って以降、突発的にヒット作が現れても一つの作品に観客が集中する傾向」というのは、北米を筆頭に世界的な現象となっている。しかも、そうしたヒット作を支えている中心層が若い世代の観客だというのも共通している。例年ならこの時期、ハリウッドのメジャースタジオがアカデミー賞のノミネートや受賞を狙って業界の内外で大々的にキャンペーンを繰り広げているはずなのだが、今年はそうした催しがほとんどおこなわれていないという(だからこそ、これまでアカデミー賞では主要賞に縁がなかったNetflix作品の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や北米での興行的な実績の乏しい日本映画の『ドライブ・マイ・カー』のような作品にもチャンスがあるのだ)。もちろん、その理由としてオミクロン株の流行もあるわけだが、北米の映画業界内の予想では今後それが恒常化していく可能性もあると言われている。

 つまり、良くも悪くもーーいや、少なくとも「大人向けの劇場公開作品」にとっては悪くも悪くもーー、パンデミックは日本でも海外でも映画のあり方を決定的に変えてしまったのだろう。先週末5位に初登場した『ハウス・オブ・グッチ』、6位に初登場した『クライ・マッチョ』、そしてトップ10入りは叶わなかった『スティルウォーター』。こういうフランチャイズ作品ではないスタンドアローンの「大人向けの劇場公開作品」が、この先も普通に日本でも劇場で公開されるのか、いや、そもそもこれまでのようにハリウッドのメジャースタジオは大きな予算をかけて配信作品ではなく劇場映画として同じように製作していくのか。既にいくつか大きなプロジェクトの頓挫も伝えられているが、きっと水面化ではさらに数多くの作品がディベロップ段階で止まっているに違いない。というわけで、みなさん、今のうちに『ハウス・オブ・グッチ』や『クライ・マッチョ』や『スティルウォーター』のような作品を映画館で堪能しておいたほうがいいですよ。

■公開情報
『ハウス・オブ・グッチ』
全国公開中
監督:リドリー・スコット 
出演:レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックほか
脚本:ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティベーニャ
原作:サラ・ゲイ・フォーデン『ハウス・オブ・グッチ 上・下』(実川元子訳、ハヤカワ文庫、2021年12月刊行予定)
製作:リドリー・スコット、ジャンニーナ・スコット、ケヴィン・J・ウォルシュ、マーク・ハッファム
配給:東宝東和 
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