岡田将生ら演技巧者が作る“家族の物語” 純粋な俳優の力量が試される『ガラスの動物園』
もちろん、座長である岡田の気概に呼応する俳優たちがいてこその『ガラスの動物園』だ。麻実れいはさすがの安定感で、母・アマンダの不安定さを演じ上げている。ヒステリックに声を張り上げて私たち観客をドキリとさせたかと思えば、たちまち笑いを引き出してもみせる。まだ“若手”の部類に入るほか3者との掛け合いから生まれる化学反応も毎公演あるのだろう。
元々テネシー・ウィリアムズ作品のファンで、「テネシーの作品がやりたい」と言っていたところにローラ役がの話が巡ってきたという倉科カナは、ローラという役に対する思い入れの強さを感じた。引っ込み思案なローラをもっともよく表現する声の震えには、舞台上にその姿がありながら、肉体もろとも消え入ってしまいそうなリアリティがあった。倉科の高い技術の証でもあるのだろうが、やはりローラに歩み寄る彼女の役への理解力(共感力)の賜物なのではないかと思う。
竪山隼太が演じるジムが登場するのは、休憩を挟んだ後の第2幕から。それまでの第1幕でウィングフィールド一家の3者のグルーブ感なるものに慣れていたからか、彼の存在は非常に異質なものに感じる。発声も身のこなし方も、ややオーバー。しかしこれこそが、後に劇全体に効いてくる。本作はある家族のささやかな幸福のひとときと、やがて訪れる崩壊を描いたもの。ジムの存在は一家にとって、圧倒的に外部にある。彼の存在の異質な優雅さは、この一家を幸福にも不幸にもすることができるものであり、竪山の演技はすべて狙い通りなのだろうと思った。
さて、「家族」について創作された物語は古今東西に存在し、新たに登場するものほど、特別な仕掛けが求められるように思う。しかしこのウィングフィールド家は、ある種どこにでもあるような一家であり、そして、どこにでもあるような問題を抱えている。これをより普遍的なものとし、いかに深みを持たせられるかは、俳優たちの力にかかっているのだ。『ガラスの動物園』は、真に優れ、かつ華のあるプレイヤーたちが揃わなければ成立しないものなのだと改めて思い知らされる。この座組により新たに生まれた上質な演劇作品が、年をまたぎ、日本を回ることになる。
■公演情報
『ガラスの動物園』
・福岡公演
日時:2022年1月6日(木)〜1月12日(水)
会場:博多座
・愛知公演
日時:2022年1月14日(金)〜1月16日(日)
会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
・大阪公演
日時:2022年1月20日(木)〜1月23日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
作:テネシー・ウィリアムズ
翻訳:小田島雄志
演出:上村聡史
出演:岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れい
公式サイト:https://www.tohostage.com/glass-menagerie/index.html