“心の悩み”とどのように向き合う? メンタルヘルスを題材にした映像作品3選
『ボー・バーナムの明けても暮れても巣ごもり』
最後に紹介するのはコメディアン、そして『エイス・グレード』を手がけた映画監督として知られるボー・バーナムが、コロナ禍の“巣ごもり”生活中に自宅スタジオの一室で全編を撮影したミュージカル・コメディ作品だ。作中に登場する20曲の全てがバーナム自身によって作詞・曲、演奏、歌唱される本作は、2006年にYouTubeに投稿したコメディソングの歌唱動画がバイラルヒットとなったことがキャリアの始まりとなった彼の原点回帰的作品だと言えるだろう。
しかしミュージカル・コメディの体をとっているものの、その内容は不穏さに満ちている。それぞれジャンルやテーマが全く異なった楽曲群とその内容、ひとり部屋に佇むバーナムの孤独な姿が映し出されるシークエンスには、彼自身の不安定な精神状態が表されている。※3
冒頭、彼はこう語る。「皆のために制作するけど、元々は僕のためだ。つまり、気をそらすためさ。頭に弾をブチ込むことになるからね」
本作を観ると、パンデミック下の自粛生活とソーシャルメディアの利用にはいくつかの共通点があることに気づかされる。どちらも根本には自分のため(そして人のため)に行っているという大義がありながら、その過程で自分自身と向き合うことを過剰に迫られ、大きなストレスを生じさせるのだ。“巣ごもり”をしながらドゥーム・スクローリング(SNSなどでネガティブな情報ばかりを見てしまう行為のこと)を繰り返し自己嫌悪に陥るバーナムの姿は、世界から自らを遠ざけ、内的世界に立ち往生する現代人の不安を見事に表現している。
近年では世界の2人に1人が一生の間に精神的不調を経験していると推定される(参照:経済協力開発機構調査)。一方、2019年に行われた調査では、精神面の健康について悩みを抱く人物が登場する映画は全体の2%未満、テレビシリーズは約7%に留まる結果が報告されている。※4
この数字は、映画・ドラマの世界においてメンタルヘルスの存在が十分に描かれていない現状を表すものだろう。精神面の健康に対する人々の関心はさらなる高まりをみせているなか、以上に挙げたような作品が今後さらに増えることを期待したい。
※参照
1.テニス=全米OP、メンタルヘルス問題への取り組み発表 | Article [AMP] | Reuters
https://jp.mobile.reuters.com/article/amp/idJPKBN2FQ04N
2.平成18年度「こころの健康についての疫学調査に関する研究」
3.Welcome to the Internet - Bo Burnham (from "Inside" -- ALBUM OUT NOW)
https://youtu.be/k1BneeJTDcU
4.南カリフォルニア大学 アネンバーグ校調査
■配信情報
『Untold:極限のテニスコート』
Netflixにて配信中