坂口健太郎の演技から滲み出る絶妙な心の距離感 『ハンオシ』百瀬が明葉への思いに気づく

「僕は明葉さんじゃなきゃダメなんだって」
「明葉さん、これからも一緒にいて下さい」

 兄の妻・美晴(倉科カナ)への不毛な恋の隠れ蓑にしようと始まった百瀬(坂口健太郎)と明葉(清野菜名)の偽装結婚。はなから結ばれることを諦めている永遠の片想い相手がライバルで、それなのに自分とは形式上だけであっても偽りであろうとも既に“結婚”という繋がりを得ているこの八方塞がりな状況がどう動くのかとやきもきしていたが、なるほど第三者の介入によって大きく事態が前進した『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系)第7話。

 この“第三者”とは兄の妻・美晴と瓜二つの“ジェネリック美晴”ことインフルエンサーの香菜(倉科カナ)の存在だ。

 百瀬と明葉の偽装結婚についても、百瀬の不毛な片想い相手に自分が似ていることも承知の上で、香菜はあの手この手で百瀬の気を引こうとアプローチを繰り出す。

 「明葉さんの代わりになれませんか?」と自ら代替品を名乗り出る香菜の姿も、そしてインフルエンサーとしての限界や焦りを感じながら、自分は代えが利く存在だということをSNSのコメントなどで植え付けられている香菜が、なんとか“結婚”や“結婚相手”に活路を見出そうとする様子も切ない。

 牧原(高杉真宙)の“ナンバーワンにもオンリーワンにもなり難い世界”という例えも言い得て妙だ。ただ、なかなか安定しないインフルエンサーという職業柄もあってか、“寄生先としての結婚相手を探している”と公言する香菜の気持ちを誰も一方的に非難などできないだろう。誰だって若かりし頃に一度や二度、仕事やその他での行き詰まりを誰かの人生に便乗することで解決したい、結婚でいち抜けして楽になりたいと思ったことがあるのではないだろうか。


 しかし、この香菜の登場と偽装結婚相手の代打提案によって、百瀬がようやく“明葉じゃなきゃいけない”と自覚する。元々は美晴への想いを悟られまいと誰でも良かったはずの結婚だけれども、そしてその中でたまたまご縁があった相手が明葉だけれども、誰も明葉の代わりになどなれっこないと、明葉“が”良いのだと百瀬は自分の中に渦巻く説明のつかない感情に初めて気づかされたのだ。

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