『最愛』のラストは企画段階から決まっていた? 新井順子Pが語るサスペンスドラマの苦難

笑いの絶えない現場のギャップ

――物語と並行して、キャストの方々が写真を撮り合ったりスタッフのみなさんを紹介したりと、SNSを通じて『最愛』チームの一体感も話題になっていました。

新井:ピリピリした本編と素で戯れるSNSとのギャップがいいんですかね? サスペンスだと「今週こういうことがあります」とは言えないから、「現場でこうでした」「こんなスタッフがいます」とかを出すしかなかったっていうのもありますけど(笑)。

――和気あいあいとしたチームを作り上げるために意識したことはありますか?

新井:どうなんでしょう? でも私と塚原あゆ子監督がノリツッコミしたり、すごくシリアスなシーンを撮っているのにNGが出た瞬間「やってまった〜!」って笑いが起きたり、たしかにサスペンスとは思えない現場ですね。主演の吉高さんが本当に現場を明るくしてくれるので、チーム全員もいい空気感で仕事ができているんだと思います。

――今回、優を演じた高橋文哉さんにも注目が集まりましたね。

新井:優の役はオーディションとかではなく、“売れる匂い”というか“いい気がする”という直感で決めました。ただ、今回の優はかなり難しい役でもありましたし、塚原監督が手掛けた『夢中さ、きみに』(MBS)にも出ていたので、監督にも相談して。あとは、吉高さんと横顔とかちょっと似ていますし。

――そうですね、透明感のある雰囲気も。

新井:梨央が優をギュッとしたり頭をポンポンするようなシーンも多かったので、そうしたバランスの良さも大切にしました。ラブの愛しさではなく、「この子のためだったら何でも頑張れる」みたいな姉弟としての愛しさが出るように。ある意味、可能性にかけたキャスティングだったところもありましたが、優の役を通じて格段に成長してくれたなと思いました。監督からの指導や吉高さん、松下さんの芝居を受けて、どんどん吸収している感じがします。

次に作りたいドラマは?

――第7話で梨央と大輝の手が触れ合って、そのままキスしそうだったのに笑い合って終わったあのシーンは、どのように生まれたのでしょうか?

新井:あそこは最初キスしようかなと思っていたんですよ。実際にプロットではそう書いてもらっていたんですけど、読んでいるうちになんか違うなと思って。「やっぱりしなくていいです!」と(笑)。ただ、見つめ合うだけもおかしいので、第1話でお守りを渡して「早く言いなよ〜」とか言ってた梨央と大輝に、戻ったようにしたかったので「じゃあ、笑い合おうか」という形になりました。

――近づいたり離れざるをえなかったり、一進一退する2人の関係性に切なさを感じました。

新井:当初から、ロミオとジュリエットみたいな切なさはこだわったところでした。第6話までは刑事と容疑者の禁断感を出して、大輝が異動したことで第7話で近づき、そのあとまた2人を引き裂く……みたいなことは決めていました。

――切なさを際立たせるために、力が入ったシーンはありますか?

新井:第6話で、行こうとする梨央を大輝が引き止めて抱き寄せるシーンは、私が松下さんに「こうやってくれ」と実演して見せました。たしか、私が大ちゃんになって、松下くんが梨央になったのかな(笑)? でも、やっぱり2人から自然とにじみ出るカップル感がいいですよね。2人とも左利きだし、実際に仲がいいし、「結婚しちゃいなよ」みたいなコメントが寄せられるのも、ちゃんと2人で空気感を作られているからだろうなと思います。

――もともと『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で吉高さんのシリアスな表情を見て『最愛』に繋がったというお話がありましたが、今回『最愛』を撮る中で「次はこういう作品を作りたい」というイメージは湧きましたか?

新井:吉高さんと松下さんで幸せな話がやりたいですね(笑)。サスペンスじゃなくて、ハラハラしない明るいラブコメディ。やっぱり重たいものを作った後は、軽いものを作りたい反動が来るので。台本は主人公の気持ちになって作っていくので、『最愛』は胸が苦しくなりましたから。サスペンスは大変です!

――サスペンスの最も大変なところはどういったところでしょうか?

新井:いかに飽きさせず見続けてもらうところですね。今まで、湊かなえさん原作のサスペンスを3本やってきて、いろいろな反省点がありました。なので、『最愛』では構成的にかなり攻めたところがあって。第2話で動画の中身を見せちゃうとか、第5話である意味最終回みたいなことをやってみるとか。秘密を引っ張って後にもっていくほど「もういいや」みたいに脱落していっちゃうじゃないですか。だから1つわかったけど、そこからもう1段階、さらにもう1段階、そうした先に本当に真実があるのか? ……と、興味を持ち続けてもらえるように作っていくのがとても難しかったですね。

――そうして作り上げた『最愛』の最終回直前、今のお気持ちは?

新井:いやー、まもなくゴールするなと。1人で企画を考えた時期から2年ぐらいやってきたので。あとは、オンエアした後の反応が怖い(笑)。かなり挑戦した最終回なので、どんなリアクションが返ってくるのかドキドキしていますけど、そういう“最愛”もあるのかなという最終回にしてみました。「うわー!」「あー!」と叫びたくなる結末だと思うので、ぜひ最後まで楽しんでください。

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
主題歌:宇多田ヒカル「君に夢中」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
編成:中西真央、東仲恵吾
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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