『カムカムエヴリバディ』新たな戦争描写の境地を開く 多くの人に観られる朝ドラの使命
「戦時中、菓子はぜいたく品じゃ言われて、作るな言われた。じゃけどほんまは、菓子は苦しい時ほど必要なもんじゃとわしは思う」
焼け跡の中、たちばなを立て直すと誓った金太が、噛み締めるように言ったこの言葉。脚本家の藤本有紀は、「菓子」を「朝ドラ」に置き換えても成立する覚悟で、このドラマを書いているのではないかと感じた。「食べる人の幸せそうな顔を思い浮かべえ」という、たちばなの精神は、きっとあの少年の中に残っていくだろう。そして、算太にも無事帰ってきてほしい。何しろ金太は「賭け」に勝ったのだから。
主人公の安子は愛する夫と、実の父、母、祖母を戦争でいっぺんに亡くす。これはなかなか前例を見ない厳しさだ。制作統括の堀之内礼二郎はインタビュー(【カムカムエヴリバディ】二度と戦争が起きないために NHK「ちゃんと死を描きます」)で「今作ではちゃんと死を描いていきます。戦争を二度と起こしてはいけないというメッセージを次の世代に伝えるためにも、それは避けられないことだと思っています」と語っている。
愛しい人の大切な命、穏やかな日常、人間の自由と尊厳を奪い去る戦争。あの愚かで惨たらしい失敗を二度と繰り返してはならないということを、エンターテインメントを通じて強く訴え続けること。それは、日本でいちばん多くの人々に観られている「朝ドラ」の使命といってもいいだろう。
これは「祈り」の物語だ。稔は最後の瞬間まで、最愛の妻と、会えなかった娘の幸せを祈り続けて旅立ったことだろう。私たちも、安子とるいの「ひなたの道」を祈らずにいられない。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK