『恋慕』から『宮廷女官チャングムの誓い』まで 今こそ知りたい韓流時代劇の歴史

 史実とフィクションを絶妙に紡ぎ合わせ、見応えあるエンターテインメントを創り上げて観る者を楽しませる韓国映画やドラマ。とりわけ、現代劇とはひと味違う歴史ドラマ、いわゆる韓国時代劇は一度知ってしまったらハマらずにいられない“沼”まっしぐらのジャンルだ。今なら、Netflixで毎週配信中の『恋慕』が1つの大きなヤマ場を迎えているほか、パク・ソジュンやBTS・Vら豪華競演の『花郎<ファラン>』、Kゾンビ時代劇の代名詞となった『キングダム』、最旬ブレイク俳優チャ・ウヌの『新米史官ク・へリョン』などまで、伝説的名作を含め、数え切れないほどの作品を配信でチェックできる。

 多くの作品で主人公となるのは、500年にわたる朝鮮王朝時代やさらに過去の時代、現代よりもはるかに厳しい家父長制や出自で全てが決まる階級社会の中を凛として生き抜いてきた女性たち。今回は女性が主役の時代劇+ロマコメジャンルを中心に変遷を探ってみた。

『恋慕』

『冬のソナタ』と共に日本を席巻した韓流時代劇は?

 2000年代初め、日本に最初の“韓流ブーム”をもたらした『冬のソナタ』。同作と両輪となってブームを盛り上げたのは、『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年〜2004年)だろう。朝鮮王朝時代の16世紀前半、両親を亡くしたチャングム(イ・ヨンエ)が母の遺志を継いで“最高の宮廷料理人”になることを目指し、陰謀に巻き込まれた苦い経験や知見を生かしながら、やがて<第11代王・中宗>の主治医にまで上りつめていく姿をドラマチックに活写。日本にも浸透している医食同源の意識や、宮廷料理の再現も相まって人気を博した。物語の大方はフィクションだが、モデルとなった医女(女医のこと)・大長今は実在した女性だ。

 また、最下層の身分出身ながら<第19代王・粛王>の側室となり、後に<第21代王・英祖>の母となった実在の女性・淑嬪崔氏を描き、“朝鮮王朝のシンデレラストーリー”と呼ばれるのが『トンイ』(2010年)だ。『宮廷女官チャングムの誓い』と『トンイ』、<第22代王・正祖>の新たな姿を描いた『イ・サン』(2007年〜2008年)の3作品は歴史ドラマの名匠イ・ビョンフン監督によるもので、『韓国時代劇 歴史大全 2020年版』(扶桑社ムック)では“三大王道時代劇”と名づけられている(※)。

 同書によれば、イ・ビョンフン監督は歴史上立派な功績を残した王や偉人を主人公にしたそれ以前の時代劇とは趣向を変え、例えば最近のハリウッド映画『最後の決闘裁判』のように史料がほとんどない人物(多くは女性たち)のわずかな記録を基に想像力を膨らませ、50話以上に及ぶ、日本でいう大河ドラマのスケールでじっくりと人物を描き出していった。

韓国歴史ドラマを代表する印象深い女性たち

【公式】「朱蒙」予告編 感動編

 本国で視聴率50%超え、『宮廷女官チャングムの誓い』に続く国民的ヒット作として日本に上陸したのが、総製作費400億ウォンもの予算がかけられた全81話の超大作『朱蒙(チュモン)』(2006年〜2007年)。古代朝鮮と呼ばれる、紀元前の高句麗建国(日本では弥生時代)という神話レベルの時代が舞台となった。『ゲーム・オブ・スローンズ』を彷彿とさせる壮大なアクションや王子の成長物語が印象的な一方、『頑張れ!クムスン』のハン・ヘジンがチュモンとその兄という2人の王子から愛されるヒロイン役で人気を集めた。

 同作から時が過ぎること600年あまり、『花郎<ファラン>』(2016年)でもおなじみの新羅の国を舞台に、朝鮮半島における史上初の女王を描いた『善徳女王』(2009年)も総製作費300億ウォンを誇る。双子で生まれ対照的な人生を辿った王女姉妹と、権力にしがみつく“悪女”の対立は多くのファンを獲得。いずれも、「何度も観返す」というファンを有する定番の人気作といえるだろう。

 さらに、チャングムとほぼ同じ時代、実在の妓生(キーセン)を描いた『ファン・ジニ』(2006年)は現代の女性たちが見ても勇気をもらえる1作だ。妓生は朝鮮王朝時代の芸妓のことだが、ファン・ジニは絶世の美女にして、国語の教科書にも載るほどの優れた詩人であり、舞踊家・音楽家・芸術家だった。天性の才能に甘んじず、女性差別には屈せず、芸の道を追及し、誇りを胸に生きるその姿は単なる成功譚には留まらない魅力を放っている。なお、主演のハ・ジウォンの過去作『チェオクの剣』(2003年)は、映画『白頭山大噴火』でイ・ビョンホン演じる北朝鮮の工作員が「最終回が気になる」とこぼしていた時代劇ドラマだ。

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