中澤一登が描くオリジナルアニメ『海賊王女』 美術や劇伴から伝わる世界観へのこだわり
「私たちが一番ワクワクするのはどこの国でもない異世界、『ここではないどこか』ですよね。そういうものが漂う音楽にしたいとずっと思っていました」
このように語るのは、本作で音楽を務めた梶浦由記である。彼女が生み出す音楽もまた別の世界へと連れていってくれるような感覚があり、異郷の質感でもってアニメーションを支えている。
先にも述べたように、18世紀のヨーロッパと日本の世界観、人物描写が違和感なく結びついている今作は、いわば中澤一登流のオリジナルワールドだ。そういった世界を盛り上げる音楽というと、現実にある音楽をミックスするだけではどうしても「異郷感」として彩るのが難しい。
「私はいつも背景を先にいただくんですが、今回も音楽を作り始める前に『あるだけください』と言ったんです」と語るように、脚本、背景を吸い上げて、中澤によるオーダーに則すように制作された劇伴。それらを聴いた中澤は、一度途中まで制作していた作画などを再度制作しなおし、クオリティを一気にアップさせようと試みたと語っている。
「正直なところいただいた音楽のイメージに絵が追いついていないという感覚だったんですよ。だから絵をそのレベルまで持ち上げないと失礼ですし、単純に負けたくないという気持ちですよね。『音楽はいいんだけど』と言われるのが本当に辛いので。だから徹底的に絵はブラッシュアップしました」(中澤一登)
物語、世界観、背景絵、音楽と徐々に肉付けされることによって、アニメーションを強化していこうという流れは、アニメーション作品としてのプライドを感じずにはいられないし、相当の労力がかけられた力作であることが窺い知れる。
こういった影響も踏まえて、本作の演技はアフレコではなく、プレスコに近い形で行なわれたことが明らかになっている。長台詞に関しても“声優の芝居を優先してくださった”と雪丸役の鈴木崚汰は語っており、音楽及び演技をまずコアに据えたうえで、アニメーションで肉付けし、形にしていこうという中澤監督の志向性を強く感じさせてくれる。
そういった入念かつ強い意志をもって制作された本作。アクションシーンの立ち回りや、キャラクターの表情、ニュアンスを軸に仕上げられた作劇からは、『少女冒険活劇』とも形容したくなるような躍動感やエネルギッシュさがある。
中澤による監督作品は数少ないが、彼が描いた壮大な世界観、制作へのこだわりや信念がうまく結実し、近年では類を見ない力作へと仕上がった。ストーリーがどのようなラストを迎えるのかを見届けていきたい。
■放送情報
『海賊王女』
TOKYO MXにて、毎週月曜24:30~放送
キャスト:瀬戸麻沙美、鈴木崚汰、櫻井孝宏、悠木碧、逢坂良太、田中進太郎、村治学、平田広明
原作:中澤一登、Production I.G
監督:中澤一登
脚本:窪山阿佐子
音楽:梶浦由記
音楽制作:FlyingDog
制作会社:Production I.G