“Mr.超大作音楽家”ハンス・ジマーによる驚異のマジック 『DUNE/デューン』にみる音楽の力

 すげぇデカい虫がいて危ない場所だけれど、莫大な利益を生む砂の惑星「デューン」。この惑星の支配権を巡って、いくつかの勢力の抗争が起きる。その最中に主人公のポール(ティモシー・シャラメ)は、全宇宙を導く救世主としての力に目覚めるのであった……。メチャクチャにザックリ書き出すと、『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)は、こういう話である。

 『DUNE/砂の惑星』はSF小説の古典である。熱狂的なファンも多く、数々の創作者に影響を与えた。他人を意のままに操る特殊能力「ボイス」は『スター・ウォーズ』シリーズで「フォース」として引用されているし、すげぇデカい虫こと「サンドワーム」は『風の谷のナウシカ』(1984年)の「王蟲」に少なからず影響は与えているだろう。影響下にあるものがあまりに多いため、逆に本作に目新しさは感じられないかもしれない。これは古典の弱点であり、避けられないことだ。そして原作が大河ドラマ的な作品なので、登場人物が多く、作中の専門用語・固有名詞が次々と飛び交う。「その人って誰だっけ?」「今この人たちは何の話をしているんだっけ?」となってしまう瞬間は絶対にあるはずだ。しかし、それでも私は本作を劇場で観てよかったと思う。なぜなら徹底的に作り込まれた「異世界」を覗く喜びと、スケールのデカい画・デカい音楽がこれでもかと連打され、大画面・大音量に圧倒される体験ができたからだ。

 本作の監督を務めたのはドゥニ・ヴィルヌーヴ。少し前までは『ボーダーライン』(2015年)くらいの中規模の映画を撮っていたが、近年は『メッセージ』(2016年)、『ブレードランナー 2049』(2017年)とSF超大作を手掛けている。エンタメ的なマインドは薄く、アクション的な見せ場や、ハッタリやケレン味は少ない。特にアクションへの関心はエンタメをやるには致命的なほど低い。その代わりに、まるで一枚の絵画のように美しくキマっているシーンを量産する圧倒的な画力(えぢから)を持っている。『ブレードランナー 2049』でも元祖“ビジュアリスト”のリドリー・スコットに負けてなるものかと、キメのカットを連打していたが、今回はその路線の決定版と言っていい。細部までこだわったであろう衣装、セット、メカ、異様に美しいティモシー・シャラメを使って、大画面に映える画を連発する。個人的には、トンボとヘリを合体させたようなオーニソプターが出てくるだけで心が幸せになった。問答無用にカッコいい。

 そして気合が入りまくりのヴィルヌーヴに応えるように、あの男もゴリゴリに仕事をしている。“Mr.超大作音楽家”ことハンス・ジマーだ。『ライオン・キング』(1994年)、『ブラック・ホーク・ダウン』(2001年)、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003年)、『ダークナイト』(2008年)、『インターステラー』(2014年)……90年代から今日に至るまで、数々の名曲を手掛けてきたジマーのオヤジ。そんなジマーが本作でも「俺が映画館を震わせてやるぜ」と言わんばかりに大奮闘している。「ア~~エイヤ~~」みたいな、ジマー印炸裂の謎コーラスが鳴り響き、「ドォォォォン!」「ズゥゥン!」「ゴゴゴゴ……!」こういった、まるで80’s少年ジャンプのバトル漫画の書き文字を曲にしたような、ド迫力の音楽を炸裂しっぱなし(というか、もうジマーの気合が入った時の音楽は、「映画音楽」というより「書き文字」の領域だと思う。映像を盛り上げるというより、映像を引っ張っているような印象すら受ける)。この驚異の“ジマー・マジック”によって、画面の中で起きていること自体は地味でも、確かに宇宙の運命が掛かった一大事に見えてくる。まさに音楽の力だ。個人的に本作のMVPはジマーのオヤジに贈りたい。

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