極めて良質なアメリカ映画 『Our Friend/アワー・フレンド』に感じた深い友愛の可能性

 閑話休題。三角関係における「ハト派」の可能性についてもうひとつ思うのは、「二人」の世界は良い時は良いけど、悪い時はすごく悪くなるということ。例えばひとりの状態があまり良くないと、もうひとりがネガティヴなヴァイブスをモロに受ける。しかし「三人」だと、やや分散して、余裕を持ってふんばれる。これはファミリーの再定義、あるいはコミュニティの在り方の問題提起と絡んでくるかもしれない。

 本作『Our Friend/アワー・フレンド』でも、ニコルの心身の状態がどんどん悪くなり、本当に大変になった段階でチェリー・ジョーンズ演じるホスピスさんが登場する。ここでマットとデインの男二人に乗り掛かった試練に、ヘルパーさんが入る――つまり「三人体制」になることで、状況は穏やかに落ち着いていく、という流れがある。

 あと、デインはなぜこの夫婦のためにこれほど献身性を発揮するのか、といった時に、彼の知られざる絶望や孤独が、映画の後半になってようやく提示される。山に独りトレッキングに出かけているシーンなのだが、もちろん詳細は記さない。だがひと言だけ――「また会いたい」。このシンプルなメッセージ。人はこれだけで生きていける、救われる。「生きる理由」をつかむことができるんだ、という映画の核心的な主題がここに凝縮されている気がする。

 おそらくこの映画が作品のアイデンティティとして最も拒否しているのは、例えば2011年のジョゼフ・ゴードン=レヴィット&セス・ローゲン主演作『50/50 フィフティ・フィフティ』といった先行の秀作と同様に、「余命もの」「難病もの」といった「死」を消費するジャンルに容易く区分けされることだろう。

 だが本作の思想性のキモとなるのは、結婚や恋人といった「制度」や「慣習」の外にある深い友愛の可能性である。「また会いたい」――その気持ちを至上の愛の形として、Our Friendという「第三の人」を浮上させる。IよりWeを、ゆるやかなOnenessのネットワークを重視する新たなヒューマニティーの考察として、これは多分に21世紀的――というより「風の時代」的なるものではなかろうか? いや、冗談ではなく。

 そんな中、本作が俳優デビューとなるカントリー系シンガーソングライターのジェイク・オーウェンが「嫌なヤツ」として登場し(役名はアーロン)、エルヴィス・プレスリーのコスプレまで披露する。愉快なジェイソン・シーゲルが「いい人」役で泣きに傾いたぶん、オーウェンこそが本作のコメディリリーフであったことを、最後に付け加えておきたい。

※吉田恵輔の「吉」はつちよしが正式表記。

■公開情報
『Our Friend/アワー・フレンド』
10月15日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
出演:ケイシー・アフレック、ダコタ・ジョンソン、ジェイソン・シーゲル、チェリー・ジョーンズ、グウェンドリン・クリスティー
監督:ガブリエラ・カウパースウェイト
脚本:ブラッド・イングルスビー
原作:マシュー・ティーグ『The Friend: Love Is Not a Big Enough Word』
配給:STAR CHANNEL MOVIES
2019年/米/英語/126分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Our Friend/字幕翻訳:神田直美/G
(c)BBP Friend, LLC – 2020
公式サイト:https://our-friend-movie.com/

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