『日本沈没』小栗旬演じる天海は策士な主人公? 野心的なリメイクを施したドラマに

 「不都合な真実はいつも蓋をされて、弱い人々が理不尽な犠牲を強いられる。そういうのが大っ嫌いなんだよ」。日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』(TBS系)の原作は小松左京の『日本沈没』。映画やアニメはあったが、連続ドラマは刊行直後の1974年のみ。実に47年ぶりのドラマ化をどう受け止めるべきか、放送前には一抹の不安を抱いていた。率直に言えば、高度成長期後の日本で社会現象を巻き起こしたレガシーを、小栗旬をはじめとするキャストと制作陣がどのように現代に甦らせるか、実際に見るまで想像できなかった。しかし、現在の社会状況を織り込んだ2021年版は、原作の要素を残しながら大胆に換骨奪胎した、良い意味で野心的なリメイクとなった。

 『希望のひと』の主人公は官僚の天海啓示(小栗旬)。天海は環境省に所属する若手官僚のリーダー的存在で、経産省の常盤紘一(松山ケンイチ)とともに総理大臣の東山(仲村トオル)にCOMSを提案する。COMSとは9000メートルの海底岩盤にあるCO2を出さないエネルギー物質セルスティックを活用するシステムで、脱炭素を旗印に掲げる東山内閣の目玉政策となった。前途洋々な天海の行く手に立ちはだかったのが地球物理学者の田所雄介(香川照之)。田所はCOMSの推進によって海底プレートが不安定になり、関東沈没を引き起こすとメディアで発信していた。「近い将来、伊豆沖で大きな地震が起きる。そして島が一つ水没する」。国民の不安をあおる論調を封殺するため天海は田所の研究所を訪ね、そこで週刊誌記者の椎名実梨(杏)に出会う。

 冒頭の10分でドラマの主要キャラと舞台設定を紹介する手並みの良さに唸らされた。天海が抱く自然への崇敬、大企業の御曹司である常盤、東大教授の世良(國村隼)と田所の確執、そして関東沈没論とその裏にある田所と環境省、Dプランズの不正疑惑。視聴者はそれらの背景事情を頭に入れた上でストーリーを追っていくことになる。過去に個性的な人物として描かれてきた田所を、日曜劇場を代表する俳優である香川が独自のテイストを加えて演じていたり、東山内閣を牛耳る副総理兼財務大臣の里城(石橋蓮司)の権力者然とした態度など、それぞれのキャラクターを見ているだけでも飽きないが、その中でも、特に第1話では、天海という人間の多面的な魅力に引きつけられた。

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