岡田健史の“熱”は今なお燃え続けている 『青天を衝け』に刻まれた平九郎としての人生

 成一郎/喜作(高良健吾)ら振武軍の面々の中で、平九郎だけが一人違う動きを見せていた。誰もが生きるか死ぬかの瀬戸際ゆえに、皆が「上野の山が燃えている」ことを気にしながらも前へ前へと歩みを進める中で、平九郎だけがじっとその様子を見つめていた。命を落とした者の傍に寄り添い、その死を悼み、できうる限りの弔いをした。匿ってくれた老夫婦の家で、「お蚕様」を見つめ、故郷を思った。非常時だろうと大勢の敵が彼1人に向かってこようと、彼は、目にするもの1つ1つに心を配り、足を留め、人としてしなければならないと感じることをし続けた。そして、てい(藤野涼子)にもらった守り袋を握りしめ、彼女の名前を呼んだ。

 たくさんの思いがあったことだろう。「兄たちのように江戸に行きたい、武士になりたい、何者かになりたい」という夢も当然あったが、それと同時に「ていと夫婦になり村で暮らしたい」という夢もあった。彼は誰より、真っ当に生きた人だった。その死までの長い道のりには、心優しい彼の生き様全てが凝縮されていた。あまりにも残酷な後日談と、「俺たちは何のために生まれてきたんだんべな」という長七郎(満島真之介)の言葉が、一際胸を衝く。

 箱館に向かった成一郎は「もう一人の渋沢」となり、篤太夫に変わって土方歳三(町田啓太)とバディを組んだ。「潔く旧来の戦い方を捨て」洋装で銃を構える土方の眼下には、史実上そんなはずはないのだけれど、死ではなく、輝かしい未来が広がっているように見える。

 その一方で、昭武(板垣李光人)は箱館に兵を出すことを命じられる。その流れは、人々が信じ熱狂し、命を捧げる(だがその真意をちゃんと理解している人がいない)対象が、「烈公」から「上様」つまりは慶喜に変わり、征伐する側に立つのが慶喜から昭武に世代交代しているだけで、「水戸天狗党の乱」を締めくくりとした尊王攘夷運動の一連の流れと共通している。

 かつて慶喜は「自分の幻の輝きが、実に多くの者の命運を狂わせた」と言った。本当に彼の輝きは「幻」に過ぎなかったのか。その答えは、篤太夫と慶喜の再会の時を待とう。

■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK

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