“完璧”なタイミングでの公開? 笑うに笑えない『パンケーキを毒見する』

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、漫画家・高橋ツトムさんの作品『ヒトヒトリフタリ』のような展開が現実にも起きないかと期待しているチョコレートパフェ石井が『パンケーキを毒見する』をプッシュします。

『パンケーキを毒見する』

 東京オリンピックが7月23日に開幕されてから1週間が経過しました。13年ぶりの連覇となった女子ソフトボールをはじめ、さまざまな競技でメダルが獲得され、テレビ・新聞でも連日お祭りムードが漂っています。本大会に懸けてきたアスリートたちの努力、掴み取った勝利が称賛されるべき一方で、喜んでばかりもいられない現実もあります。言わずもがなですが、流行から1年以上が経過した今も新型コロナウイルスの感染拡大がおさまる気配がないということです。

 オリンピックの祝祭ムードの裏で、これまでにないペースで増えている新型コロナウイルスの感染者。楽しんでいいのか、悲しむべきなのか、それとも怒るべきなのか、複雑な感情を抱いてる方も多い現状かと思います。

 そんな現在を背景に、本日7月30日から公開されたのがドキュメンタリー映画『パンケーキを毒見する』です。配給は『新聞記者』『i-新聞記者ドキュメント-』など、これまでも政治を題材とした作品を手掛けてきたスターサンズ。今回は現在の内閣総理大臣・菅義偉氏に迫っていきます。

 ドキュメンタリー、かつ政治ネタとなれば、取っつきにくいという方が多くいるかと思います。そんなイメージを払拭するように、内山雄人監督は本作を「コメディ」と評しています。確かに、本作には思わず笑ってしまうシーンが随所にあります(乾いた笑いですが)。特に上西充子氏が国会の様子を解説するシーンは、同じシーンを再生しているのかと思うほどに、菅総理はひたすら同じ答弁をし続けます。もちろん、ギャグでもなんでもないシーンなのですが、菅総理の後ろで慌ただしく動く官僚の方(即席で答弁用の原稿を書いたり)、その横で我関せずの形で居眠りをしている河野太郎氏の姿など、コントさながらに滑稽としか言いようがない様子が映し出されています。

 本作には、自民党・石破茂氏、共産党・小池晃氏をはじめ、与野党の政治家、元官僚、元議員、元新聞記者、評論家、現役大学生らがインタビューに登場します。彼らの言葉から、菅義偉という人物、現在の日本の政治状況が浮かび上がっていきます。

 終盤に登場する大学生の一人は、どの世代よりも10〜20代の方が今の政権を支持しているデータ(2021年2月まで)が出ている理由を次のように語ります。

「菅さんのパンケーキが好きみたいなのが、ネットでも盛り上がってたし、テレビでも放送されていて、めちゃくちゃ盛り上がっていて。あれだけだろうなと思っていて。周りの子は自民党を批判しているわけでも支持しているわけでもどっちでもない」

 この言葉が支持率の理由のすべてではないと思いますが、あながち間違いでもないのでしょう。中身を知らなければ、知っている情報、外側の情報だけで判断するのが当たり前であり、“パンケーキの人”となれば、その柔らかいイメージや可愛い雰囲気に、なんとなく好き、と思う方がいるのも自然なことだと思います。しかし、そんな理由で政治家を選び続けた先にはどんな未来が待っているでしょうか。少なくとも、本作を観た人は、菅総理が決してパンケーキのような人物ではないことは十分に理解できます。

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