『おかえりモネ』菅波先生、納得できないのはこっちです! 数々のフラグを回収する名脚本
特に東京編に入ってからは、時折見せるキャラ変も板についてきた朝岡だが、やはり初期の頃から『おかえりモネ』で描き続けてきた物語の真髄に触れるような言葉を残す役回りでいることに変わりはない。海と山の豊かさを知る上で、その強さを知っている百音だから、出会った頃から気象に携わってほしいと考えていた朝岡。彼女の情報ももちろん有益なもので決して間違っているのではない、とフォローをする様子はまさに上司の鑑だ。この一連のやり取りは、実社会にも通じる恐怖を煽るだけの報道の仕方についても考えさせられるし、この「無知を恐れるから、知識を身につける」ことは、実はあの菅波先生(坂口健太郎)がずっと前に百音に説いていたことでもある。まさか、こんなところで菅波フラグが立つとは!
私が以前書いたコラム(『おかえりモネ』坂口健太郎からの美しい“知識”のプレゼント 学び考え続けることの大切さ)でも、百音はうまくいかなくて落ち込んでいた。そこに菅波が「物事がうまくいかなくて落ち込んでいるとき、僕は何かしら新しい知識を身につけるようにする」と話していたのだ。『おかえりモネ』はずっと、突然起きてしまった悲惨な出来事にただ恐れを抱き前に進めなくなるのではなく、また考えるのも悲しいけれど、それを知っていくことで少しずつ前向きに未来を捉えられるようになろう、というメッセージを、百音を通して描いてきた。
そんな彼女は、コインランドリーで朝岡の言葉を反芻させながら悩む。また、物事がうまくいかずに落ち込んでいた彼女の前に現れる菅波。「誰か話聞いてくれよ」と愚痴をこぼす百音だが、その“誰か”はもう彼女の中で決まっていたのだと思う。「仕事中だよな……」と思いつつ、菅波の声が聞きたくて思わず電話しかけようとしていた百音の全てを見透かしたように声をかけてくる。びっくりして振り返る彼女の顔を見ると、感情がよくわからない表情をしながら「納得いきませんね……」と呟いた。
百音も視聴者も「え? その態度に納得いかないのはこっちですよ?」と、思わずつっこんでしまいそうな雰囲気で終わった第54話。しかし、菅波が納得していないのは、これまた以前百音が「先生とは会おうと思えば、また東京でばったり」と言ったのに対して「人口1300万人ですよ。会いたい人にそう簡単にばったり会えるような、なまぬるい世界ではありません」と返した自分の論理が破られてしまったからである。素直に喜ばないところも、また菅波らしくて良いと思うけど。登米のクラマックスでもじれったい2人は、再会に至るまでのすれ違いもじれったいものだった。しかし、本当のじれったさはこれから始まるのかもしれない。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK