『ココ・シャネル 時代と闘った女』が暴く実像と生涯 100年後も廃れない装いと精神に触れる

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ベッドではシャネルN°5だけを纏って寝る女でいたいアナイスが『ココ・シャネル 時代と闘った女』をプッシュします。

『ココ・シャネル 時代と闘った女』

 過去に5作品もの映画で扱われてきた人物、ココ・シャネル。本作が6作目ということで、恐らくこれほど多くの作品で語られてきたファッションデザイナーは、他にいないのではないだろうか。それは彼女がファッションデザイナー、の一言ではあまりにも語り足りない存在だからかもしれない。

 ただ、これだけ映画が作られていても、ほとんどが“伝記映画”つまりフィクションや脚色を含んでいるもので、大体が彼女の幼少期からデザイナーになるまでの前半生を恋愛ドラマ多めで描かれたもの。その中で唯一、ドキュメンタリー映画として彼女を捉えたのは1986年の『シャネル シャネル』。生きていた頃のインタビューの様子をはじめとした本人映像なども交えながら、カール・ラガーフェルドが解説していくものとなっている。

 そのため、没後50年N°5誕生100周年を記念して公開された、この『ココ・シャネル 時代と闘った女』は1986年以来の、正式な彼女のドキュメンタリー作品なのだ。本編は、実際の映像や当時のフッテージが合わさりながら、『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』のランベール・ウィルソンのナレーションとともに展開されていく。シャネルについて語るジャン・コクトーやフランソワーズ・サガンといった証言者たちの貴重な映像も見ることができて凄い。1時間以内に収まる尺の中で、まるで一人の女性の人生に起きた出来事とは思えないほど、情報量の多い波乱に満ちた人生、そして彼女の功績が紹介される。

 シャネルについて考える時、思い浮かぶのは“解放”だ。それはただ、フェミスト宣言をして過激な集会を開いて主張をするようなものではない。自身で男性的な服を身に纏う静かなプロテストに始まり、その機能性や実用性を女性のファッションに転換させることにある。コルセットをつけることがマナーだった彼女たちから、物理的なその縛り、そしてコルセットによって生まれるシルエット、そういった“女性らしさ”から解放したのだ。固定観念を、革新させたのである。それに、日焼けも昔は労働者階級の証として蔑まれるものだった(白くて明るい肌は上流階級の証とされた)のを、彼女自身が逆にバカンスを楽しむ余裕、ゆとりのある生活のシンボルに変換させた。これもまた、自由を意味する解放である。

 そのほかを考えても、今日の社会のあり方や考え方においてシャネルが礎を築いたものは少なくない。その革新が100年前くらいのことであるにも関わらず、彼女の生み出したファッションとともに廃れないのは、やはりその精神が真に迫る本質的なことだから。それらを、本作を通して2021年に改めて触れるのはとても良い機会だった。

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