エミー賞20部門ノミネート『テッド・ラッソ』 涙と笑顔でぐちゃぐちゃになる胸熱ドラマ

 Apple TV+を観られる状況にあるのに『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』をまだ観ていなかったら、それはかなり損をしている。『テッド・ラッソ』は笑えて泣けて気分があがる……というありきたりな紹介をされがちだが、実際にそれ以外言いようがないくらい、シーズン1の全10話を観終わる頃には涙と笑顔でぐちゃぐちゃになるドラマシリーズだ。7月23日にはシーズン2が配信開始になり、すでにシーズン3の製作も決定している。

Ted Lasso — Official Trailer | Apple TV+
テッド・ラッソ — シーズン2 予告編 | Apple TV+

 7月14日に発表された第73回プライムタイム・エミー賞(夜間時間帯に放送されたテレビ用作品から優秀作を選ぶ、テレビ版アカデミー賞)でコメディシリーズ部門の作品賞、主演男優賞(ジェイソン・サダイキス)、助演女優賞、助演男優賞、監督賞、脚本賞など主要20部門にノミネート。放送(配信)初年度作品として『Glee/グリー』(2010年)の19部門を凌ぐ史上最多部門ノミネートを記録している。また、翌日に発表された米テレビ批評家協会賞でも最多の5部門でノミネートされている。

 大学のアメリカンフットボールのコーチ、テッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)が新天地イギリスでプレミアリーグのサッカーチームの監督に就任するところから物語は始まる。アメフトではチームを優勝に導いた手腕を持つテッドだが、サッカーは完全な門外漢。共通するのは“フットボール”という英米で異なるスポーツを指す言葉だけ……。彼を抜擢したレベッカ(ハンナ・ワディンガム)にはある思惑があった。チームメイトや番記者たち、地元のファンに軽くあしらわれても、アメリカンジョークとクッキー(ショートブレッド)作りを愛するテッドは全くうろたえない。

 このドラマの成功は、サッカーシーンをほとんど描かないところにある。よって、弱小チームが突然覚醒し、大試合で大逆転するようなカタルシスは描かれない。物語はピッチではなく、オーナーのレベッカの執務室とロッカールーム、そしてカラオケバーで進んでいく。テッドとチームの文化摩擦で笑い、物語全体を包むテーマの“BELIEVE(信じる)”に泣き、最高の高揚感でシーズン1は幕を閉じる。テッドのリーダーシップは、成功体験に基づく勝負理論を押し付けるのではなく、“自分と仲間を信じよう”と周りの全ての人々に訴えかける。7月15日にロサンゼルスで行われたシーズン2のプレミアでサダイキスは「ジェイドン(・サンチョ)&マーカス(・ラッシュフォード)&ブカヨ(・サカ)」の名前が入ったシャツを着て登壇し、サッカー欧州選手権決勝後に人種差別被害に遭っていた英国代表3選手を支持した。

 ひげとティアドロップ型サングラス、イギリスについて音楽ネタの知識しか持ち合わせていない典型的アメリカ人のテッドを演じるジェイソン・サダイキスは、第78回ゴールデングローブ賞テレビ部門(ミュージカル/コメディ)で主演男優賞を受賞している。舞台出身、『サタデー・ナイト・ライブ』のコントライターとしてTVでのキャリアをスタートし、『モンスター上司』(2011年)、『なんちゃって家族』(2013年)などのコメディ作品に出演。長年のパートナーのオリヴィア・ワイルドの長編初監督作『ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー』(2019年)にも出演しているが、2020年に破局している。その直後にオリヴィアがワン・ダイレクションのハリー・スタイルズと交際を始めたことも、テッド・ラッソまんまな展開で胸が痛くなる。テッドの愛されるポイントがつまったようなアメフトコーチ時代の“優勝ダンス”はインターネットミームになり、SNSで拡散された。

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