『スーパーカブ』が愛される作品となった理由 地方の寂しい風景を儚くも美しい世界へ

 前述した通り『スーパーカブ』は、近年の成功パターンがふんだんに盛り込まれた隙のないアニメだ。だが、映像から受ける印象は真逆で、なんとも言えない不安な気持ちになる瞬間が多く、だからこそ逆に目が離せない。

 おそらくアニメスタッフは子熊の心情を丁寧に拾い上げた上で映像に落とし込んだのだろう。

 第1話は早朝から物語が始まるのだが、田舎町の風景に被さるクラシック音楽と、子熊の日常をリアリスティックに捉えるクールなカメラワーク。そして自然音が耳に残る風景の描写は『リリイ・シュシュのすべて』や『花とアリス』といった岩井俊二の青春映画を観ているかのようで、思春期に感じていた不安定な気持ちを思い出してしまう。

 子熊の両親は他界しており、今は奨学金の給付を受けて高校に通っている。彼女のお弁当は白飯にレトルト食品という味気ないもので、話す友達もいないため、静かな時間が淡々と過ぎてゆく。『けいおん!』や『ゆるキャン△』が、女子高生グループが楽しそうにしている姿を全面に打ち出していたことを考えると、子熊の暗さは真逆と言っていい。

 かといって『新世紀エヴァンゲリオン』のヒロイン・綾波レイ以降、定番化している人形のような美少女とも違う。温度こそ低いが喜怒哀楽の感情を持っている、どこにでもいる女の子だ。

 そんな子熊がカブに乗ることで見える世界が広がっていく姿こそが、本作最大の見どころである。だが、その見せ方はとても慎重で、派手な事件はほとんど起こらない。

 だからこそ、終始ハラハラする。特に序盤は一見静かだがスリリングなシーンが多い。カブで公道に出た子熊が、後ろからトラックが追い抜いていく瞬間に驚く姿や、夜のコンビニの駐車場でバイクのエンジンがかからずに座り込んでしまう場面は、観ているこちら側にも不安が伝わってくる。

 何より、だだっ広くて人気がない田舎町の描写が子熊の孤独感を増幅させる。おそらく本作の影の主人公は子熊を取り巻く田舎の風景なのだろう。閑散とした寂しい風景は、子熊の心象風景のようにも感じるのだが、だからこそ、本作はその「寂しさ」を否定せずにカブを使ってやんわりと肯定する。

 衰退しつつある地方の寂しい風景(それは日本全体を覆う未来そのものである)を、カブの力で儚くも美しい世界に読み替えたからこそ『スーパーカブ』は愛おしい作品となったのだ。

■配信情報
『スーパーカブ』
各配信サービスにて配信中
キャスト:夜道雪、七瀬彩夏、日岡なつみ
原作:トネ・コーケン/イラスト:博(角川スニーカー文庫刊)
監督:藤井俊郎
シリーズ構成、脚本:根元歳三
キャラクターデザイン:今西亨
協力・監修 本田技研工業株式会社
制作:スタジオKAI
製作:ベアモータース
(c)Tone Koken,hiro/ベアモータース
公式サイト:https://supercub-anime.com/

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