『100日間生きたワニ』の出来はどうだったのか 原作のブームや興行的な苦戦とともに考察

 2019年冬から2020年の春にかけて、Twitterで大きな盛り上がりを見せた4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』。「100日後に死ぬ」という情報が読者に明示された上で、そんなことは知らずに物語のなかで生活を送るワニの主人公と、周囲の登場人物の日常が描かれていく作品である。映画『100日間生きたワニ』は、そんな漫画のアニメ映画化企画だ。

 しかし、本作は公開がスタートしてから、一部でネガティブな意見にさらされ、興業的に苦戦を強いられている。一年前の春に大きなブームとなり、人気を集めた原作の映画が、なぜこういう状況に陥ったのだろうか。ここでは、その理由を考えるとともに、本作の出来が、実際にはどうだったのかを評価していきたい。

 映画は、原作漫画最終話の再現より始まる。桜の花びらが舞う春の光景のなかで、予告通り「ワニ」と名付けられたキャラクターの生涯は幕を閉じる。そこから、原作でも描かれた数々の場面を膨らませるかたちで、ワニが生きていた100日間を振り返っていくのだ。そして本作はさらに、原作が描かなかった、ワニの周囲の登場キャラクターたちの後日談を語っていく。

 まず伝わってくるのは、原作『100日後に死ぬワニ』のファンに向けて、納得できるバランスで映像作品を提供しようという、作り手の意図である。興味深いのは、そのためにあえて原作のイメージを軌道修正している部分もあるという点だ。原作タイトルの「死ぬ」を「生きた」に変更した点からも、その意図が理解できる。

 漫画『100日後に死ぬワニ』が最初に注目を集めたのは、ワニが部屋で一人、TV番組を見ながら「はははっ!!」と笑っている姿を描いただけの、第1話(1日目)がTwitterに投稿されたときからだった。これから数ヶ月で死ぬ運命にあるワニが、自分の運命を知らずにひたすら貴重な時間を浪費しているという、“死”をモチーフとした、不謹慎ともいえる皮肉なギャグ……。

 他の初期エピソードでも、余命が少ないにもかかわらず、一年後にならないと届かない商品をTVショッピングで予約してしまったり、信号を無視して道路を渡ろうとするヒヨコに「気をつけないと死んじゃうよ!!」と説教をするなど、原作は当初、不穏な笑いを提供するシリーズだったといえる。

 1日ごとに4コマが提供され、ワニの余命が少なくなってくるに従って、「本当に100日後に死ぬのか」「どう死ぬのか」ということが、ネット上で話題を集めることとなった。まさに、SNSならではのライブ感覚によって、『100日後に死ぬワニ』は、日が経つごとに広く拡散し、熱を帯びていったのだ。作品を発信するきくちゆうきのアカウントのフォロワー数は、最大で約200万にまで膨れ上がることになった。

 作品が予想をはるかに超えた人気を集めていくなかで、作風も変化していくことになる。死を笑いに転換する内容は、次第に日常の瞬間を切り取ったものとなり、最終的にはワニへのあたたかい感情を表現したものとなったのだ。

 映画版は、その方針転換した内容を受け継ぎ、“死”を面白がらせるような部分を排除している。そして、ワニの死に方を冒頭で描くことによって、ワニの死がどうなるのかという興味を失わせることで、ワニの死におけるライブ的な感覚をも完全に捨て去ることにしたのである。かくして本作は、ワニの残された100日を振り返る一冊のアルバムのような内容となった。いま考えてみれば、映画として広く『100ワニ』を届けようとするなら、やはり倫理的にそういう着地点にするしかなかっただろう。

関連記事