『おかえりモネ』サヤカさんからの「行きなさい/生きなさい」 百音と菅波の未来への決断

 その後、森林組合に辞職の旨を伝えた百音を支えたのも、サヤカである。「山がダメなんじゃない、山を知ったから空の仕事をしたくなったんだ」と、組合の人間をなだめるサヤカに、なんて素敵な言葉なんだろうと胸が掴まれる。時に人は何か思わぬ“発見”と出会う。その過程にあったものを決して嫌いになったわけではない、けれどその“発見”への煌めきを追い求めたいという気持ち。仕事や人生において、こういった場面は多々訪れる。周囲がそれを咎めることもあるかもしれない。それでも、それは“自分が”見つけた「何か」なのだから、自分の気持ちに従うべきなのだ、なぜなら本当は抗えないから。組合に入った頃よりもずっと凛とした顔立ちになっている百音が、それを体現している。そこに添えられた石ノ森章太郎先生の残した「どんなに時代が変わっても面白さをみつけられれば人間はいくらでも熱くなる」という言葉。

 あらゆるものに背中を押された百音に、逆に背中を押されたのは彼女の様子を遠目に微笑んで見守っていた菅波(坂口健太郎)だ。彼にとっての東京行きは、言ってしまえば上京する百音と一緒に、また近くにいられるチャンスでもあった。しかし、中村先生(平山祐介)に「もうしばらく東京と行き来して訪問診療を続けていこうと思う」とそれを断る。それは“今の自分”で彼女の近くにいても、ダメだから。「何かを考える前に、手が動くようにならないといけない」と言って思い返すのは、“痛み”を抱えた百音の背中に手を当てられなかった時のこと。彼女を本当の意味で見守り、支えるには百音から教わった新たな価値観とともに、自分を成長させなければいけないと決意したわけだ。“じれったい”感満載だった今週の菅波であったが、この決断は男らしくて、ヘタレとか思っていたことを謝りたくなる。

 さて、百音もついにその“痛み”を家族にぶつける時がきた。ただ、素面ではなかなか言い出しづらいのか、耕治(内野聖陽)の言葉をかわしつつ「お父さん、私もう二十歳だからお酒飲めるよ! 一緒に飲もう!?」と日本酒を勢いよく飲み始めた。そうか、気がつけば成人していたんだ、という百音の成長っぷりに少し感動しつつ、彼女の人生初の二日酔いを案じてやまない。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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