評論集『脚本家・野木亜紀子の時代』

“考察”ブームが後押しした、トレンド1位連発 横川良明が『MIU404』の熱狂を紐解く

“考察”ブームが後押しした、トレンド1位連発

 また、『MIU404』を語る上で“考察”ブームも避けて通れない事象だ。『あなたの番です』(日本テレビ系)のヒット以降、あらゆるドラマが“考察”の対象となっている。SNSで実況しながら視聴するというスタイルの定着もあり、『MIU404』でも多くの“考察”が生まれ、Twitterのトレンド1位を連発した。

 ただ、この“考察”ありきの視聴スタイルが健全なのかといったら、個人的にはそう思わない。『MIU404』のナウチューバーの特派員REC(渡邊圭祐)のように、点と点を強引に結びつけて強引にストーリーを作り上げていることにもなりかねない。作品を自分の都合のいいように消費してしまうことはグロテスクだ。ただ、野木の脚本が“考察”を生むほど魅力的なのも分かる。例えば、久住(菅田将暉)のバックボーンについては、さまざまな“考察”が広がった。久住の「みーんな泥水に流されて、全部なくしてしまえばいいねん」「一瞬で人も街も全部さろてまう。全部のうなって、それでも10年経てば、みーんな忘れて終わったことになっとる」というせりふから、久住は東日本大震災の被災者ではないかという“考察”が生まれた。また、久住が関西弁を操ることから、2009年の台風9号によって家や家族を失ったのではないかという“考察”も加熱した。

 どちらも決して過剰な思い込みとは言い切れない。なぜなら、少なくとも劇中でそれらを否定する材料は出てきていないのだから。そういう可能性もあるし、ないかもしれない。そうした野木脚本の余白の広さもまた熱狂を生む要因だ。全ての答えが明かされないと、たちまち「伏線が回収されていない」と失望されるのが今の連ドラだが、そもそも全てが分かる必要などない。「俺は、お前たちの物語にはならない」という久住のせりふに、陰謀論や〝考察〟がもてはやされる今日の風潮に対する、野木の毅然たる態度が見えた。

 ……続きは本書にて。

■横川良明
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画などエンタメを中心に取材・執筆。著書にコラム集『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)、男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』(KADOKAWA)がある。Twitter

■書籍情報
『脚本家・野木亜紀子の時代』
著者:小田慶子、佐藤結衣、田幸和歌子、成馬零一、西森路代、藤原奈緒、横川良明
発売日:7月20日(火)予定
ISBN 978-4-909852-17-5
仕様:四六判/256ページ
定価:2,750円(本体2,500円+税)
出版社:株式会社blueprint
予約/購入は以下より
book store:https://blueprintbookstore.com/items/60d5a3ca91260a201c0ca23c
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4909852174/

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