『犬は歌わない』監督のインタビュー映像公開 秘蔵映像の入手から撮影の苦労まで語る

『犬は歌わない』監督インタビュー映像公開

 公開中の映画『犬は歌わない』の監督を務めた、エルザ・クレムザーとレヴィン・ペーターのオンラインインタビュー映像が公開された。

 本作は、ロカルノ国際映画祭で2部門受賞を果たしたドキュメンタリー映画。宇宙開発、エゴ、理不尽な暴力、犬を取り巻くこの社会を、ソ連の宇宙開発計画のアーカイブと地上の犬目線で撮影された映像によって描き出す。

 1950年代、東西冷戦の時代。ソビエト連邦は宇宙開発に向けて様々な実験を繰り返していた。その中の一つがスペース・ドッグ計画。世界初の“宇宙飛行犬”として飛び立ったライカは、かつてモスクワの街角を縄張りにする野良犬だった。宇宙開発に借り出された彼女は宇宙空間に出た初の生物であり、初の犠牲者となった。時は過ぎ、モスクワの犬たちは今日も苛酷な現実を生き抜いている。そして街にはこんな都市伝説が生まれていた。ライカは霊として地球に戻り、彼女の子孫たちとともに街角をさまよっている。

監督両名に直接聞く!映画『犬は歌わない』オンライン・インタビュー!!『犬は歌わない』監督のインタビュー映像公開

 批評家の金子遊が担当した今回の監督インタビュー。クレムザー監督は、「今回このような形で、日本で公開されるというのは大変我々にとって嬉しいことです。最初は、人間的な視点ではなく、犬の視点でこの世界から見るとどうになるか、犬をこの映画の主人公にして、大きな映画のスクリーンの中に表現したらどうなるか、ということが元々の発想の始まりでした。それが、このような形で世界中で皆さんから評価をいただき、ロカルノ国際映画祭でも賞をいただき、そしてまた日本で公開することに至ったということは大変光栄なことだと思ってます」と、日本公開の喜びを語る。

 また、ペーター監督は「まず一番最初我々が考えたのは、単純にライカのことではなかったのです。90分間の普通の映画を撮るにはどうしたらいいか。しかも人間が出てこないで、『犬』が主人公。その犬を使って、世界を描くということをどうしたらいいか、ということを考えていました。それから、犬のことをずっと考えいたら、『ライカ』というものに出会いました。これを使ったら、また別の世界観が描けるのではないかという発想になっていきました」と作品の経緯を明かした。

 犬の視点での撮影については、「この映画を撮るとき、カメラマンはカメラをかなり下に構えて、犬の視点で撮るわけですが、この視点というのは普通に生活している人間にはないわけですね。例えば、3歳の女の子だったらまだ背が低いですから、犬と同じような目線というのはあるかもしれない。でも、我々人間というのは、(大人になった人間は)、犬というものをあくまで上から下へ、見下ろして見ています。それが今回の撮影で、自分たちが犬とともに一緒に走り回りながら、(カメラからリアルタイムに送信される)モニター画面を見ていると、普段とは完全に異なりました。自分たちが犬を見上げるような形で見るような経験を多くしました。まさに、このことを映画館に持ち込みたかった。映画を撮っていく中で、気が付いたらこのことが自分たちの別のモチベーションとなっていきました」とクレムザー監督。

 続けて、「もちろん長い時間をかけて、犬と一緒に交流しますから、ある程度のことは分かってきます。さらに言うと、この映画と作るために、4年間犬について考え、犬とともに映画を作っていったのです。その中で気付いたことは、我々人間が犬のことをすべて分かってしまっているということ自体がおかしいということです。我々は犬のことを理解できない、だから人間があたかも犬のことをすべて理解しちゃってるということが、逆に間違っているのではないかと。犬のことはなんでもわかる、だから人間の代わりになる、ということで実験にも使うと。そういうことから、逆にそこから逆照射して、人間は実は、この動物のこと(あるいは自然のこと)を分かりきることはできないというところにたどり着いたのです」と語った。

 ペーター監督は、「長い期間撮影する中で、こういう風に撮ってみようか、ああいうふうに撮ってみようかということはある程度考えていました。1~2週間ずっとカメラ越しに見ているうちに、犬がどういう動きするか、だんだん私たちも把握してきました。例えば、この犬はこれからどう動くか。1時間くらい寝ると、パッといきなり動き出す、ということも自分たちは把握していたので、1時間をジッーと待って、ある程度準備しつつ、その動きを合わせてそのアクションを追っていきました。そういったことを全部組み合わせながら撮っていきました。だから我慢は必要なんですが、その我慢の次に来る彼らの自発的なアクションにどうついていくかということは自分たちの中で練習して、リハーサルをしていた部分もありました」と独自の撮影手法を明かした。

 また、劇中で使用されているライカや他の実験に使われた犬たちのフッテージ映像については「当然、冷戦当時ソビエト側が持っていたものですから、簡単に表に出たことはなかったですし、今回使われている映像は、初めて外に公開される形になります。もちろん、これを手に入れるまで3年かかりました。こちらがドキュメントフィルムを撮るというと、当然向こう側は警戒するわけです。かつての悪いことを指摘されるような印象を持たれることは困る、と。ですが、我々としてはそういうものではなく、あくまで自分たちの映画、犬を使った世界観を描くための映画の一つのマテリアルとして必要なんだということを懇々と常に連絡を取りつつ説得しました。最終的に3年かけた説得の後、『わかった』と返事をもらうことができました。これは本作で一番苦労したことの一つです」と使用に至るまでの経緯を語った。

 こうした宇宙開発のために使われた動物実験の問題は「簡単に答えを出せる問題ではありません」と前置きしたペーター監督。「例えば、人間が今現在生きる中で、コスメですとか、洋服だとか、そういったものに動物愛護の観点が全くない中で動物を散々使用し、また我々はその環境の中で動物を利用しながら生きている、あるいは自然を利用しながら生きている面もあります。なので、それを一概に批判、あるいは間違っているという言い方をしていいかどうかは考えなきゃいけません。今回映画を撮るにあたって、逆にそのような人間的な視点を入れませんでした。犬の視点で人間社会、あるいはこの世間を見たときに何か見えてくるのか、ということに、我々の興味がありました。人間的な面から見て、これがどうのこうのという判断というよりも、むしろ逆に我々自身を問うために、犬の目を通して、我々自身がどう映っているのかというところにフォーカスしたかったのです。だからあえて、こういった大きな問題に対して、YesとかNoとかのことではなく、むしろ犬側が何を言うか、犬側が我々人間をどう見ているのか、ということに興味がありました」と作品に込められたメッセージを明かした。

 最後に、ペーター監督は「このような形で日本の皆様に、自分たちが作った映画をお目にかかることは大変光栄です」、クレムザー監督は「野良犬という存在は今日本にはほとんどないと思いますが、別の世界にはこういう世界があるのだということを日本の皆様に是非知ってもらいたいです。その意味では、この映画は我々は映画館の大きなスクリーンのために撮った映像ですので、是非映画館に足を運んで見ていただきたい。それが我々からのお願いです」と日本の観客に向けてコメントを寄せた。

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■公開情報
『犬は歌わない』
東京・シアター・イメージフォーラムにて公開中
大阪・シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、名古屋・シネマテーク、横浜・ジャックアンドベティほか全国順次公開中
監督・プロデューサー:エルザ・クレムザー&レヴィン・ペーター
ナレーション:アレクセイ・セレブリャコフ
撮影監督:ユヌス・ロイ・イメル
音楽:ピーター・サイモン&ジョナサン・ショア
編集:ヤン・ソルダット、ステファン・ベヒャンガー
後援:オーストリア大使館、オーストリア文化フォーラム
配給:ムーリンプロダクション
2019年/オーストリア・ドイツ/DCP/91min/カラー・モノクロ/DOLBY SRD 5.1
(c)Raumzeitfilm
公式サイト:http://moolin-production.co.jp/spacedogs/
公式Twitter:@SpaceDogsJP
公式Facebook:https://www.facebook.com/SpaceDogsJP

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