磯村勇斗、俳優人生に刻まれる『青天を衝け』徳川家茂役 将軍として見せた最後の笑み

 大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)第20回「篤太夫、青天の霹靂」では、第二次長州征討の最中に大坂城で病に倒れた家茂(磯村勇斗)が21歳の若さでこの世を去る。

 13歳で江戸幕府14代将軍となった家茂は、幕臣や天皇など多くの人に翻弄されながら、難しい政務に挑んできた。その若さから悩みに抱えていたのは、自分の意見が言えないというジレンマ。そんな家茂を支えてくれていたのが後見役の慶喜(草なぎ剛)、そして正室の和宮(深川麻衣)であった。

 家茂にとって慶喜は心強い存在でありつつも、将軍として何もできていないと心苦しくなる相手でもあった。しかし、第20回にて2人はやっと腹を割って話すこととなる。天皇の妹を妻としながら天皇が望む攘夷を果たせなかった自分は長州征討を成し遂げるまでは死ねないと覚悟を問いただす家茂に、慶喜は家茂が将軍に選ばれたことは正解であったとその責任感の強さを認めるのであった。将軍と言えども、まだ21歳という若さ。慶喜に抱かれ、嬉しそうな笑みを浮かべる家茂がそこにはいた。

 家茂との不本意な婚姻にありながら、彼の誠実な人柄に触れ、徐々に心を開いていった和宮。第17回では長州征討に向かう家茂が和宮の手を取り、2人の間で育まれた愛を確かめ合うシーンが展開された。家茂の亡骸と共に届いた美しい西陣織の反物を見て、和宮が詠んだ「空蝉の 唐織衣なにかせん 綾も錦も君ありてこそ」は有名な和歌である。次期将軍は誰が継ぐのかーー家茂と思わしき遺言があちらこちらから出てくる中、和宮が言い放った「慶喜が継げばよい」「次は慶喜が苦しめばよいのです」というセリフは、その冷淡な笑みからはっきりとした憎しみが感じられる名演であった。おそらく、家茂、天璋院(上白石萌音)とともに、物語からは一旦の離脱となるのだろうが、最後に家茂にも負けず劣らずのインパクトを残していった。

 家茂を演じた磯村勇斗にとって大河ドラマは今作が初。6月25日放送『あさイチ』(NHK総合)の「プレミアムトーク」に出演した磯村が語っていたのは将軍としての所作や言葉遣いに加えて、若くして幕府を背負う責任感が、背伸びをしながら家茂を演じる自分と結びついていけばいいという思いだった。複雑な立場で揺れる感情を体現しているのはもちろん、磯村が演じる家茂には聡明さや柔らかな雰囲気も纏っている。磯村が『あさイチ』で話していたように、大河ドラマにおいて将軍役をできる人は限られている。公開が迫る映画『東京リベンジャーズ』をはじめ、今後も多くの作品への出演が予定されている磯村だが、『青天を衝け』で演じたこの家茂は俳優人生にしっかりと刻まれる役柄になったことだろう。

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