動物なのに“人間らしさ”を感じる? 『オッドタクシー』が視聴者にもたらす親近感
もう1つの利点は数多くのキャラクターたちが、視聴者に覚えられやすいことだ。今作は群像劇ということもあり、何十人ものキャラクターたちが登場する。そして出番の多寡はあるものの、その誰もが複雑に絡み合い、他のキャラクターの行動や思惑に影響していく。これが全員人間型のキャラクターであった場合、誰がどのような事情を抱えているかわかりづらくなってしまうのではないだろうか。
そこで動物のモチーフを活用することにより、各キャラクターの個性を強調するとともに、直感的に視聴者に覚えてもらえる。例えばアルパカの白川は清楚な雰囲気もある可愛らしい看護婦、テナガザルの柿花は冴えない部分もあるお調子者、といった具合だ。これだけ複雑な物語を違和感なく受け入れられるのは、動物キャラクターの利点でもある。
『オッドタクシー』はキャラクターデザインを動物とすることで、各キャラクターの個性を描くことに成功している。それによって41歳の無愛想なおじさんが主人公になったり、あるいは多数なキャラクターを視聴者に説明している。これは群像劇をより魅力的に魅せるための大きな工夫と言えるのではないだろうか。
今作は先に挙げた『ズートピア』などに比べると、生態に動物らしさは感じられない。小戸川からは見た目以外からオットセイらしさを感じないし、ゴリラで医者の剛力は、知的なゴリラらしさを感じなくもないが、あくまでも人間の延長線であり、絶対にゴリラでないと物語が破綻するようなキャラクターではない。この2人と柿花が通う小料理屋で食べるものも、人間が食べるものと同様だ。
あえてそのような人間臭い描写を重ねることで見えてくるものが、通俗的で普遍的な人間の奥深さだろう。SNSでバズって有名になりたい、かわいい女の子にモテたい、芸人やアイドルとして売れたい、楽してお金が欲しい……そういった人間の持つ欲や弱さ、業といったものが感じ取れる。あえて動物キャラクターとすることで個性を増し、そして人間らしさをより強固に感じる作品に仕上がっている。
動物をメインキャラクターのビジュアルとすることで、社会や差別などの問題を描く作品もあれば、あえて人間に寄せることで人間の持つ欲や業を描き出す。同じ手法であっても描くテーマは異なり、どちらも奥深いものになる。『オッドタクシー』を観ていくうちに、自分の身の回りにも、小戸川や剛力や柿花のような人間が身近にいるような気すらしてくるのではないだろうか。筆者はSNSで安易に人気者になったりお金を得たい樺沢太一に、自分は似ていると感じて、背筋を伸ばす。
■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame
■放送情報
『オッドタクシー』
テレビ東京ほかにて、毎週月曜26:00〜放送
Amazon Prime Videoにて独占配信
出演:花江夏樹、飯田里穂、木村良平、山口勝平、三森すずこ、小泉萌香、村上まなつ、昴生(ミキ)、亜生(ミキ)、ユースケ(ダイアン)、津田篤宏(ダイアン)、たかし(トレンディエンジェル)、村上知子(森三中)、高井佳佑(ガーリィレコード)、フェニックス(ガーリィレコード)、浜田賢二、酒井広大、斉藤壮馬、古川慎、堀井茶渡、黒田崇矢、大塚芳忠、汐宮あまね、神楽千歌、METEOR
企画・原作:P.I.C.S.
脚本:此元和津也(P.I.C.S. management)
監督:木下麦(P.I.C.S.)
副監督:新田典生
キャラクターデザイン:木下麦、中山裕美
美術監督:加藤賢司
色彩設計:大関たつ枝
撮影監督:天田雅
編集:後田良樹
音響監督:吉田光平
音響制作:ポニーキャニオンエンタープライズ
音楽:PUNPEE VaVa OMSB
音楽制作協力:SUMMIT, Inc.
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:P.I.C.S. × OLM
(c)P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ
公式サイト:https://oddtaxi.jp/