石原さとみ、30代の新たなヒロイン像 『失恋ショコラティエ』から『恋ぷに』までの変化

 『恋ぷに』では、“お仕事ドラマ”と“ラブコメ”のハイブリッドな石原さとみが見るられる。石原が演じる渚海音は海洋学者という表の顔を持ち、それがきっかけでマリンリゾート開発を手がける蓮田トラストの御曹司・蓮田倫太郎(綾野剛)と出会い、やがて恋に落ちる。第7話で海音の正体が明かされた通り、実際には海からやってきた使者で海洋生物の代弁者であり、“人魚姫”であることが示唆された。本気の“ラブコメディー”である。

 やはりこの設定を体現できる理由として、石原のずっと変わらぬ可憐なルックスは一つ外せない要素となってくる。地上生活初心者の海音は時として周囲を驚かせるような言動をするが、ともすれば“不思議ちゃん”になってしまうところも全くあざとくはなく、事情を知らなければ全て“海洋生物オタクゆえ”に見える。同じ研究所で働く後輩の藍花(今田美桜)は26歳の設定で海音とは7歳の年の差があるわけだが、事あるごとにしっかり者の藍花にツッコミを入れられ、フォローされながら2人が良好な関係を築けているのも微笑ましい。年下女子から敬遠されずになんだかんだ懐かれるというのには、それこそ何よりも“かわいげ”が必要になってくる。(海音はよく藍花に相談に乗ってもらい、その助言も素直に聞き入れている。)だが、石原がすごいのはそれでいて単に“守られる側”の女子に甘んじないところだ。

 自分の役割を強く意識した“使命感”を持ち合わせており、それに伴う“孤独感”もきちんと引き受けている役どころが本当にマッチする。“目は口ほどにものを言う”とはよく言ったもので、あの黒目がちな強い瞳が役どころの心情や揺れ動く感情、決意を切に物語る。瞳いっぱいにこぼれないギリギリのところまで涙を溜めて見せられるのも彼女の武器の一つだと思える。今にも涙がこぼれ落ちそうなのに、泣いているのに、そこにあるのは“儚さ”よりも“強さ”だ。“悲しみ”より“愛”だ。

 本作での海音も自身の正体をずっとひた隠しにしてきていたし、『アンナチュラル』でのミコトは一家心中事件の生き残りという事実を彼氏にも言わずずっと心に留めていた。『高嶺の花』でのももも、自身の家柄について不用意に話はしなかった。いずれの役柄も“守られたい”のではなく、自身の中に明確な“守りたいもの”があり、自分で何事も“選択”していく。王子様を待つしかない御伽話の中のお姫様には終わらないのだ。

 キャラクターの中にある“可憐さ”と“揺るがないしなやかな強さ”を同居させ見せられるのは、これまで築いてきた石原さとみのキャリアと現在地があってのことだろう。

 “王道ラブコメ”要素と“一風変わった設定”が掛け合わさった『恋ぷに』も残り2話となった。石原さとみ演じる海音にどんな未来が待ち受けているのか。きっと単に倫太郎に“守られる”だけの存在には終わらないであろう海音は、倫太郎と海洋環境という相反する2つの自分の大事なものを迫りくるタイムリミットや自身の宿命の中“守る”ことができるのか。彼女のまさに“命がけ”のミッションがどんな結末を迎えるのか、そんな視点からも本作を見届けたい。

■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
4月期水曜ドラマ『恋はDeepに』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:石原さとみ、綾野剛、今田美桜、大谷亮平、渡邊圭祐、橋本じゅん、藤森慎吾(オリエンタルラジオ)
脚本:徳尾浩司
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:枝見洋子、畠山直人、鈴木香織(AX-ON)、山口雅俊(ヒント)
演出:鈴木勇馬、岩本仁志、伊藤彰記
主題歌:back number「怪盗」(ユニバーサル シグマ)
(c)日本テレビ
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