『ヒロアカ』TVアニメ第5期は物語設定の上手さが光る 「全編、修行編」の特異性と面白さ

 先ほど、『ヒロアカ』は全体を通して「成長」を描く物語だと述べたが、本作は「過去があるから今につながる」という各キャラクターの歩みが、驚くほどきめ細やかに描かれている。たとえば第93話「新技即興オペレーション」では、「職業訓練編」や「インターン編」で断片的にしか描かれなかったホークスと常闇踏陰の師弟関係にフォーカス。彼の内面の変化が描かれることで、たどり着いた新技が披露される。常闇の成長は、今後の『ヒロアカ』自体の展開にも大きくかかわってくる部分だ(コミックス27~28巻あたりに該当)。

 そして、期末の演習試験である第35話「八百万:ライジング」で己の殻を破った八百万百が、より上達したオペレーション能力を発揮し、知性派リーダーとしての資質をさらに開花(第94話「先を見据えて」)。その姿を、演習試験でペアを組んだ轟が見守るという構図も、ファン的には痺れるものであった。なお、ここで八百万が「負ける」という結果が、後々に用意されている彼女のさらなる進歩につながっていくので、ぜひ記憶にとどめておいていただきたい(コミックス28~29巻あたりに該当)。

 第95話と96話では、1年A組の学級委員長である飯田の活躍が熱い。飯田は代々続くヒーローの名門に生まれ育ち、「ターボヒーロー:インゲニウム」の名をいつか兄から譲り受け、人々を救(たす)ける存在になることを夢見ていた。だが、シーズン2で登場した“ヒーロー殺し”ステインの凶刃で兄はヒーロー生命を絶たれ、飯田も暴走。私怨に走ってしまった結果、緑谷と轟によって救われる。

 その後、自らの行いを深く反省した彼は、爆豪が敵連合にさらわれてしまった際、独断で動こうとする緑谷たちを力ずくで諫める(シーズン3第46話「飯田から緑谷へ」)など、不器用ながらも人々のお手本になれるようなヒーローを再び目指し始めた。そこには、病床の兄から受け継いだインゲニウムの名を冠する者としての、強い責任感が伴っている。それゆえ、激痛が伴うパワーアップのための修行に自ら飛び込み、強力な新技「レシプロターボ」を会得した(放送時、この技が発動されるシーンは「神作画!」と視聴者が狂喜。これまでのヒロアカアニメシリーズでも屈指のクオリティだった)。

 ただ、彼が強化を図ったのは、「敵を倒したいから」ではないのがミソ。飯田の意識はあくまで「いつでも誰の元へでも駆けつける」という兄から継いだ信念にあり、そのための手段としての身体強化だ。敵をいなしつつも、「救助が先決!!」と人命を最優先に考える彼の戦い方は、ステイン戦の教訓を糧にしたことで導き出されたもの。ここにもまた、堀越氏が丁寧に編み込んだ「成長の道筋」が垣間見える。

 また、飯田とチームを組んだ轟においては、父である現No.1ヒーロー、エンデヴァーとの確執からなかなか抜け出せずにいる姿がしっかりと描かれる(後述するが、成長を描く上でのロードマップをすっ飛ばさずに丁寧にひとコマずつ進めていくのが、堀越氏の非凡さでもある)。そのうえで、窮地に陥ったことで新たな領域へと歩を進めていく。ちなみにそのシーンでの轟のセリフ「なりたい俺に なる為に」は、体育祭編で緑谷から体当たりで気づかされた、自分の原点とリンク(シーズン2第23話「轟焦凍:オリジン」)。母の言葉「なりたい自分に なっていいんだよ」と相互関係にある。

 加えて、「もっと上げろ 上げられる 己を燃やせ」は、父エンデヴァーが現No.1ヒーローとしての初陣を切ったハイエンド戦で己を鼓舞した「火力を上げろ!!」(シーズン4第88話「始まりの」)に感化された証拠であろう。憎むべき相手だが、ヒーローとしては尊敬している。そして「向き合う」ことを選んだ轟は、父の雄姿を目の当たりにしたのちに、この言葉を発した。こうした細かなすべてが、一切のほころびなく紡がれているのだ。

 そして、第97話からは、爆豪の飛躍的な成長が描かれる。彼は元々、ハイスペックだったために周囲を見下し、自尊心が肥大化したいじめっ子だった。そんな中、「無個性の緑谷に救われる」「緑谷がオールマイトからワン・フォー・オールを授かり、雄英高校に合格する」「努力を惜しまず、どんどん前進していく」姿を見て、少しずつ意識に変化が生じていく。

 さらには、自身の力が及ばず敵連合にさらわれてしまい、結果的にオールマイトとオール・フォー・ワンの死闘の引き金を引いてしまったことで、力を使い果たしたオールマイトは引退。自責の念に駆られた爆豪は、ヒーローの仮免試験にも落ちてしまい、緑谷との私闘、さらには秘密の共有を経て「ヒーローの心の在り様」について今一度考えてゆく(ターニングポイントとなったのは、シーズン3第60話「てめェの“個性”の話だ」・61話「デクVSかっちゃん2」)。

 そこから、仮免補講で「いつまでも見下したままじゃ 自分の弱さに気付けねェぞ」(シーズン4第80話「ホッコれ仮免講習」)との言葉を発するまでに変化した爆豪は、文化祭でのバンド活動という“共闘”を経たうえで、合同戦闘訓練に挑む。ここで彼が見せる姿は、ずっとその成長過程を見てきた者からすると、胸を打つものがあるはずだ。なお、その後も爆豪はどんどんヒーローの器へと近づいていく(コミックス29~30巻あたりに該当)。

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