青山はなぜ珈琲の移動販売を始めたのか 『珈琲いかがでしょう』“大切な想い”を繋ぐ一杯

人生の幸せは「大切な想い」のリレー

 考えてみれば、私たちの人生は「大切」を繋いで成り立っている。例えば、外食ひとつ取っても、誰かが大切に育てた食材を、誰かが大切に運び、誰かが大切に調理した結果、ようやく私たちの口まで届く。

 珈琲豆に至っては遠い国から温度、湿度、酸素、光と様々な天敵から守りながら、慎重に運ばれてくるもの。ベストな焙煎レベルを模索し、丁寧に豆を挽く。そして豆の様子をじっくりと観察しながら、そーっとお湯を注ぐ。

 じわじわとお湯が染み渡り、繊細に膨らんでいく珈琲豆を前に「この子たちの声を聞いて」とたこが言う。だが、自分の声に耳を傾けてくれた人なんていなかった青山には伝わらないのがもどかしい。

 大切にされた記憶のない青山に、珈琲を通じてその意味を伝えていくたこ。その日々は、青山の真っ黒な目に少しずつ光を差すものだった。「美味しくなれ」と願いながら淹れる珈琲は、それを飲む人が「幸せになれ」と願うことと同じ。珈琲を淹れているとき、青山もこの「大切な想い」のリレーをつなぐ1人であることを知ったのだ。

 しかし、それは同時に怖いことでもあった。大切なものができるということは、それを失うリスクを背負うということ。自分を大切に思えば、今と同じ生活を続けることには耐えられなくなる。大切な人ができるほど、その人に何かがあったときに心が押しつぶされそうになる。

 これまで考えなくてよかったことが、一気に青山の頭の中に押し寄せる。でも、その耐え難い味を知るからこそ、川のほとりでする釣れない釣りに幸せを感じることができるというものなのかもしれない。

 そして、多くの苦味を引き受ければ、その味を活かす珈琲を淹れることもできるようになる。「あんたと私じゃ年数が違う」と笑った、たこが言いたかったのはそういうことなのではないだろうか。

 そのたこの遺志を継ぐ形で、青山が始めたのが『たこ珈琲』の移動販売だった。そこで垣根(夏帆)をはじめ、自分を大切にすることを忘れそうになっている人に向けて珈琲を淹れてきた。その最終ゴールは、たこが愛し続けた奥さんの居場所。だが、あと一歩のところで青山は捕まってしまう。

 その追っ手の正体は、かつて青山が抜けた組のぼっちゃん(宮世琉弥)だった。青山に捨てられたと思い、その愛情の反動により大きな憎しみを抱いていた。もしかしたらこの再会は、たこが「まだ美味しい珈琲を必要としている人がいる」と言っているのかもしれない。ぼっちゃんの「大切にされたい」を、今の「大切にする」を知った青山なら受け止められるのではないか。そう期待しながら、来週もこの時間を待ちたい。

■放送情報
『珈琲いかがでしょう』
テレビ東京系にて、毎週月曜23:06~23:55放送
出演:中村倫也、夏帆、磯村勇斗、光石研ほか
第6話~:宮世琉弥、鶴見辰吾
第7話~:長野蒼大
第8話ゲスト:市毛良枝、宮野陽名、前田旺志郎、森迫永依
原作:コナリミサト『珈琲いかがでしょう』(マッグガーデン刊)
監督・脚本:荻上直子
監督:森義隆、小路紘史
音楽:HAKASE-SUN
オープニングテーマ:「エル・フエゴ(ザ・炎)」小沢健二(Virgin Music/UNIVERSAL MUSIC)
エンディングテーマ:「CHAIN」Nulbarich(ビクターエンタテインメント)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:合田知弘(テレビ東京)、森田昇(テレビ東京)、山田雅子(アスミック・エース)、平部隆明(ホリプロ)
制作:テレビ東京/アスミック・エース
制作協力:ホリプロ
製作著作:「珈琲いかがでしょう」製作委員会
(c)「珈琲いかがでしょう」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/coffee_ikaga/
公式Twitter:@tx_coffee
公式Instagram:tx_coffee_ikaga

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