小川紗良×橋本絵莉子、作り手として大切にしてきたもの 「やっぱり、楽しむしかない」

 小川紗良監督作品『海辺の金魚』。様々な事情で身寄りのない子供たちを描いた本作は、“親と子”とは何か、“自立”とは何か、私たちのすぐそばにある現実を、自然豊かな風景とともに映し出している。そんな本作の主題歌「あ、そ、か」を担当したのは、橋本絵莉子。小川監督からの熱いオファーによって実現したという。前に前に進んでいくクリエイターとして、どこか似た雰囲気をもつ2人に語り合ってもらった。(編集部)

小川紗良からの思い切ったオファー

――まず、今回の映画の主題歌を、橋本さんが担当することになった経緯から教えていただけますか?

小川紗良(以下、小川):この映画の撮影を終えて、ある程度編集も終わった頃に、最後に流れる主題歌をどうしようかなって考え始めて。こういう内容の映画なので、できれば女性の方で、なおかつ子育てをされている方にお願いしたいなって漠然と思っていたんですね。そしたらちょうどその頃、橋本さんがソロで活動を再開されていて。テレビCMで「ピッカピカの一年生」を歌われていたんです。

橋本絵莉子(以下、橋本):歌いました。

小川:その歌声を聴いたときにピンときたというか、チャットモンチーは小学生の頃から大好きでずっと聴いてきたし、橋本さんに主題歌をお願いできたらそんなに嬉しいことはないなって思って。それで思い切ってオファーをさせていただいたんです。

――これまでに何か接点があったというわけではなかったんですね。橋本さんは驚いたんじゃないですか?

橋本:ビックリしました(笑)。しかも、私のホームページに小川さんが直接メールをくださって。だから、私のマネージャーさんもすごいビックリして。

――「本物かな?」みたいな(笑)。

橋本:はい。実際、本物かどうか、マネージャーさんが確認したって言っていました。

小川:すいません、いきなり連絡して。

橋本:いえいえ(笑)。で、こういう話をもらいましたっていうことで……そのときには『海辺の金魚』のラッシュの映像もできていたので、それを観させていただいた上で、お受けすることにして。

――そこからどういうふうに、今回の曲を作っていったのですか?

橋本:映像を観させてもらったら、児童養護施設を舞台にしたお話だったんですけど、私自身はお母さんとお父さんがいる家庭で育ったから……この映画を観たあとに歌詞を書くってなると、なかなかやっぱり説得力とかそういうものがないというか、私が歌ったらウソになるなって思って。それは絶対ダメだと思ったんですよね。

――今も「詞先」というか、歌詞から曲作りをしているんですね。

橋本:そうです。なので、映画の内容に沿った歌詞を私が書くのはちょっと違うなって思って。それで、そもそも作ってあった曲の中で、何か合いそうなものはないかと思って探したら、“お母さん”っていうワードが出てくるものがあって。それがこの「あ、そ、か」っていう曲だったんですけど、小川さんの映画を観たあとに、その歌詞をちょっとだけ書き直したら、ピッタリ合うんじゃないかって思って。それでこの曲のデモを、送らせてもらったんですよね。

――小川さんのほうで、あらかじめ「こういう感じの曲を」みたいな希望はあったんですか?

小川:今回のお話を受けてくださることになってから、何となくのイメージみたいなものは、私のほうからあらかじめお伝えしていました。いちばん最初は、『となりのトトロ』のエンディングみたいなイメージでって言っていたんです。

――「となりのトットロ、トットロ」というあの曲ですか?

小川:はい(笑)。今回の映画って、先ほど橋本さんがおっしゃったように、舞台設定やテーマ的にすごく明るい話っていうわけではないんですけど、私としては希望に向かっていく感じのものにしたいなって思っていて。なので主題歌をお願いするときに、あたたかい感じの曲でお願いしたいですっていうことをお伝えしました。それで送っていただいたのが、この「あ、そ、か」っていう曲のデモだったんですけど、すごく温もりのある曲だと思ったし、この曲って最初は子供の目線の歌詞で、そのあと母親の目線の歌詞になっていくじゃないですか。

橋本:そうですね。

小川:『海辺の金魚』は、どちらかというと子供の目線で作られていて、母親の姿があまり出てこないというか、母親が実際どんなことを考えていたのかはほとんど描かれていないんですよね。だけど、最後にこの歌があることで、映画の世界がさらに広がるというか、主人公の女の子たちのずっと先の未来が少し見えるような気がして。そこがすごくいいなって思ったんです。

――なるほど。この曲は、もともとどんなことを考えながら作っていった曲だったのですか?

橋本:歌詞を直す前の段階の曲ですか? この曲の歌詞は、さっき小川さんが言ってくれたように、母親と子供の歌詞なんですけど、2番の歌詞の中に、もともとは“先生”っていうワードがあったんですね。自分よりも目上というか、何かを教えてくれるような立場の人に何か言われて、ちょっとうっとうしいと思うときってあったなって思って。でも、今考えたら、それぐらいでちょうど良かったっていうか、何かそんなことをふと思った瞬間があって。もともとは、それで書いていた歌詞だったんです。で、今回のオファーをもらったときに、もう完全に親と子の曲にしようって決めました。

――この「あ、そ、か」っていうタイトルは……。

橋本:すごい大発見っていうほどのことではないんですけど、今になってからそうやって「あ、そっか」って思うことって、普段めちゃめちゃあるなあって思って。それこそ、母と子のあいだでも。なので、それをそのまま曲のタイトルにしました。

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