『おちょやん』における“子ども”というつながり 千代、一平、灯子それぞれの苦しみ

 灯子(小西はる)のお腹には新しい命が宿っていた。浮気の段階では一平(成田凌)とやり直すことを考えていた千代(杉咲花)だったが、灯子の腹の中の赤ん坊の存在が事態をより深刻にする。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第98回で描かれたのは、赤ん坊を巡る灯子、一平、そして千代の苦しみだった。

 子どもが生まれてくるということは、本来ならば祝福されてしかるべき出来事だ。だが灯子の妊娠の相手は人様の夫なのだから、事はそう簡単に行くはずもない。灯子は、家に事情を尋ねに来た一平に、子どもを生んで働けるようになるまでの間、生活するためのお金が欲しいと切り出す。「愛情はいりませんから」と話す灯子だが、その表情からは自分1人で子どもを育て生きていこうとする決意のようなものが感じ取れた。

 一平は岡安に戻ると事情を話し、金を貸してほしいと頭を下げる。「できるだけ多く持たせてやりたい」と話す一平をみつえ(東野絢香)はきつくなじった。するとそこに寛治(前田旺志郎)が、千代からの離婚届をもって現れる。千代はついに離縁を決意したのだった。心配して千代の元を訪ねるみつえだが、千代の心が変わる気配はない。

 これまで千代と一平のあいだには子どもがおらず、それが千代の心のどこかに引っかかっていたことは度々描かれてきた。今では千代と一平の間には我が子のような寛治の存在があり、夫婦の関係も安定していたが、今回の一件は千代を深く苦しめることとなる。“魔が差した”などとよく言うように、愛についての問題は気持ちの持ちようで乗り越えることもできたかもしれない。実際に千代は、一度は一平を許すつもりでいたのだから。しかし夫の浮気相手の女性が子どもを妊娠しているとなると話は別だ。その子が大きくなるまで、またなってからも一平には父親としての責任があり、千代には自分は子を持てなかったという苦しみがついてまわる。

 それに、灯子はともかくとしてもお腹の中の子になんら罪がないということは、不甲斐ない父親に苦労をかけられてきた千代が一番理解しているのかもしれない。だが頭で理解することと心が受け入れることは、また別の話。だからこそ千代は辛く苦しいし、一平との関係を修復するのは簡単なことではないだろう。

 「もっぺんだけ話がしたい」とみつえに伝言を託した一平。はたしてふたりの関係はどうなるのか。これまで喜劇を介して支え合ってきた絆に思わぬ亀裂が入り、胸が痛む。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/