『WAVES』監督の極私的な長編デビュー作 『クリシャ』で自身の家族を起用した理由

 4月17日から、A24作『WAVES/ウェイブス』のトレイ・エドワード・シュルツ監督の長編映画デビュー作『クリシャ』が公開された。

 2020年に劇場公開された『WAVES/ウェイブス』は、旬なアーティストの音楽をベースに物語を綴った意欲作として我々の印象に残った作品。一家の長男と妹の長女の視点で描かれる二部構成で、二人の視点で捉える家族の見え方の違いなどがおもしろい。そのシュルツ監督が最初に映画のテーマに選んだものも「家族」。しかも単なる家族ではなく「自分の家族」であり、それが『クリシャ』なのだ。

依存症に悩む黒い羊のクリシャが引き起こした、感謝祭と家族の崩壊

 主人公・クリシャは感謝祭で姉の家を訪れる。そこには姉妹たちとその家族、そして自分自身の母親や息子トレイが集まっていた。しかし、クリシャは長い間アルコールやドラッグなどの依存症のせいで家族と距離を置いていて、実の息子もずっと自分の姉が育てていたのだった。今回の感謝祭も、クリシャがようやく長い期間シラフで回復しているから料理を振る舞わせてくれ、と家族に伝えたことで呼んでもらえたものである。それでも、我々は映画の冒頭で車を降りて家に入るまでのアグレッシブな彼女の様子をすでに観ていて、絶対にこの感謝祭が丸く収まるなんて思ってはいない。

 さて、久々に会った親戚一同の前では何とか朗らかにしているクリシャ。久々に会った息子にも、距離を詰めながら近況を聞く。大学で経営を学んでいる彼に対し、幼い頃から映像作りが好きで才能もあるから映画製作への道を歩むべきだと諭すが、彼女の目を一度もトレイは見ようとしない。息子以外にも、もう一人の姉妹ヴィッキーの夫ドイルに嫌味を言われ、徐々に動揺しはじめる。そして彼女の限界がピークに達するきっかけを与えたのは、彼女の母親、つまりトレイの祖母ビリーが家にやってきた時のこと。物忘れの激しい母だが、顔見知りのファミリーメンバーのことはそれぞれ覚えていて、きちんと挨拶をしていた。しかし、クリシャの時になると、母は困惑し、あまり良く覚えていないような素振りを見せる。これにすっかり心を打ち砕かれたクリシャが隠し持っていたワインを一気に飲み、感謝祭が一気に地獄と化す。

 日本には感謝祭の文化はないが、冠婚葬祭などの親戚が集まるようなシーンが同じようにある。そして恐らく、親戚の輪が大きければ大きいほど、どこにもこういった疎まれている厄介な親類はいるはず。しかし、日本とアメリカの大きな違いを挙げるとしたら、その“黒い羊”に対する態度だろうか。例えばドイルと庭で談笑していたのに、突然クリシャが相手を諭す仕草をしたら「お前が言うな」みたいな感じでかなりキツい言葉を吐き返されたり。息子トレイに映画作家になるべきだと言った時も同じような反応をされるクリシャ。日本では例え心の中でそう思ったとしても、表面上はある程度取り繕うような場面で容赦なく否定的な態度をとるのは(それが家族だとしても)欧米圏だからこそのコミュニケーションだと感じた。