『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に影響を与えたバディ映画 共通項と2人の関係性
政治的なテーマ性を持つ『真夜中のカーボーイ』からの影響
また監督のカリ・スコグランドは、本作のインスピレーション源の1つとしてアメリカン・ニューシネマの傑作『真夜中のカーボーイ』(1969年)を挙げている。テキサスからニューヨークへやってきたジョン・ヴォイト演じるカウボーイのジョーと、ダスティン・ホフマン演じる詐欺師のリコ。2人は友情を育んでいくが、物語は悲劇的な結末へと向かっていく。アクションシーンが全くない同作が『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』に影響を与えているというのは、少し意外だ。
バディ映画というと、刑事ものを中心にアクション映画やコメディ要素の強い作品が多い印象がある。しかし『真夜中のカーボーイ』は、ダークなトーンの作品だ。同作が当時のアメリカの閉塞感、退廃的でサイケデリックな文化に対する批判的なテーマを持っているのと同様に、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』も第3話までですでに人種差別や難民の問題、ポピュリズムなど、現代アメリカの政治的な問題を織り込んでいる。もともと『キャプテン・アメリカ』シリーズはMCUのなかでも政治的思想の強いシリーズであること考えると、同作の影響も納得できる。
過去のトラウマとそれを癒やす絆
また『真夜中のカーボーイ』のジョーとバッキーのキャラクターには類似性がある。映画でははっきりとは明言はされてはいないものの、ジョーは奔放な祖母に育てられたり、恋人を失ったりと過去のつらい経験のフラッシュバックを体験する。ところが彼はリコと行動をともにするなかで、そうした苦しみが薄れていったようだ。先述した『リーサル・ウェポン』のリッグスも、物語冒頭は交通事故で妻を失った悲しみから自暴自棄になっている。しかしやはり、マータフと行動をともにするなかで悲しみを乗り越えていく。
バッキーもご存知のとおり、ウィンター・ソルジャーだったころの記憶に苦しんでいる。彼もまた、サムとともに新たな脅威に立ち向かうことで、過去のトラウマを払拭していくのではないだろうか。
どの作品にも共通するブロマンス
『リーサル・ウェポン』や『バッド・ボーイズ』など、刑事ものを中心にこれまで数多くのバディ映画で描かれてきた男同士の熱い絆は、近年は“ブロマンス”と呼ばれるようになった。相手のためならば、自らの社会的地位や命さえも顧みないほどの友情。『真夜中のカーボーイ』では、劇中でジョーとリコの同性愛関係が示唆されているものの、その雰囲気はブロマンスに近いものがあるのではないだろうか。一方、『キャプテン・アメリカ』シリーズにおけるスティーブとバッキーの関係はブロマンスそのもので、それが人気の理由でもあった。サムとバッキーも、本作で相棒として命を預け合う関係を築くことになるのだろうし、視聴者もそれを期待している。
MCUらしいアクションと伏線が張り巡らされた展開に毎回注目が集まる『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、これまでの様々なバディものから影響を受けている。物語の展開とともに、2人の関係の変化から今後も目が離せない。
■瀧川かおり
映画ライター。東京生まれの転勤族。幼少期から海外アニメ、海外ドラマ、映画に親しみ、10代は演劇に捧げる。
■配信情報
ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』
ディズニープラスにて独占配信中
出演:アンソニー・マッキー、セバスチャン・スタン、ダニエル・ブリュール
監督:カリ・スコグランド
脚本:マルコム・スペルマン
原題: The Falcon and Winter Soldier
(c)2021 Marvel