『エヴァンゲリオン』を実写パートから考える 旧劇場版と新劇場版の“虚構”と“現実”

 対する『シン・エヴァンゲリオン劇場版』には、『Air/まごころを君に』のような実写のみで構成されたパートはなく、より巧みに入れ込まれている。もっとも印象的な実写の使用パートは、ラストシーンだ。

 父・碇ゲンドウの野望を阻止して、エヴァンゲリオンのない世界を創世したシンジは、エヴァの呪いが解かれて成長したレイとカオルにアスカ、そしてマリと駅のホームで再会する。その舞台となる宇部新川駅とその周辺が実写で映し出されるなか、手を取り合って、ホームから階段を駆け上がり、改札を抜けて駅から街へと飛び出すシンジとマリ。2人を俯瞰で撮りながら、カメラは引いていき宇部市の遠景へと変わっていく。

 『Air/まごころを君に』で実写パートがアニメ本編に異質な存在として挿入されていたのに対して、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では絵のキャラクターと実写の背景がひとつの画面で共存しているのは象徴的だ。

 端的に言ってしまえば『Air/まごころを君に』が提示しているのが虚構か現実の二者択一なのに対して、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では虚構と現実の共存、より踏み込んでいえば虚構と現実の相互作用を信じて、それを実践しているようにも見える。

 それは目に映る実際の映像だけでなく、その制作手法からも感じる。

 3月22日にNHK総合で放送された『「プロフェッショナル 仕事の流儀」庵野秀明スペシャル』を視聴した方はご存じだろうが、第3村を舞台にしたAパートは、アニメーション制作で通常脚本を基に描かれるはずの画コンテに先行し、セットでの実際の役者の演技をモーションキャプチャしたプリヴィズ(簡易3DCGによる動画コンテのようなもの)を作成した。その理由について庵野は、頭のなかで考える虚構、画コンテを超える画を得るための意を語っている。

 また同パートでは、他にも田植えのシーンなどの作画の参照用に実際の動きを動画に収めたり、第3村のミニチュア模型を作成するなどの、現実をベースに虚構を作り上げる手法が導入されている。

 こうした入念な制作手法を経たAパートでリアリティを得ているからこそ、その後の現実を超えた虚構ならではの外連味に満ちた映像が活きているといえるだろう。ちなみにシンジを乗せたヴンダーが南極に発進するCパート以降は、画コンテ作成後にプリヴィズ制作という形に戻ったそうだ。そしてそれ以降の旧エヴァ以上に顕著だった、マイナス宇宙やゴルゴダオブジェクトなど『ウルトラマンエース』をはじめとする数々の過去作へのオマージュは、虚構としてのフィクションを創作という現実に昇華させている証明にも見える。

 シンジとマリが実景の市街へ駆け出していく『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のラストは、現実をベースに作り上げた虚構が、最後にまた現実へと帰っていくのと、かつて否定されて断絶された虚構と現実が、肯定され混然一体となっていく様を端的に表している。だからこそ、ただの作品からの卒業ではない、解放感と多幸感に満ちているのだと思う。

■倉田雅弘
フリーのライター兼編集者。web・紙媒体を問わず漫画・アニメ・映画関係の作品紹介や取材記事執筆と編集を中心に、活動している。Twitter(@KURATAMasahiro

■公開情報
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
全国公開中
企画・原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏
テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、石田彰、立木文彦、清川元夢、関智一、岩永哲哉、岩男潤子、長沢美樹、子安武人、優希比呂、大塚明夫、沢城みゆき、大原さやか、伊瀬茉莉也、勝杏里、山寺宏一、内山昂輝、神木隆之介
音楽:鷺巣詩郎
制作:スタジオカラー
配給:東宝、東映、カラー
上映時間:2時間35分
(c)カラー
公式サイト:http://www.evangelion.co.jp
公式Twitter:https://twitter.com/evangelion_co

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