アニメ『岸辺露伴は動かない』のホラー的な魅力 観る者を震え上がらせる多様なアプローチ

 アニメ『岸辺露伴は動かない』が、2月18日よりNetflixにて全世界独占配信を開始した。

 本作はもともとOVA(オリジナルビデオアニメーションのこと。テレビ放送ではなく、主にソフト等の販売形式で制作されるアニメを指す)作品であり、能動的なファンでなければなかなか目にする機会は少なかったことだろう。高橋一生が主演した実写ドラマ版が好評を博したこともあり、今回のNetflix配信によって、より多くの新規ファンを生むのではないか。本稿では、同作の配信を記念し、改めて本作の概要や魅力をご紹介したい。

 『岸辺露伴は動かない』は、荒木飛呂彦氏による『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのスピンオフ漫画のアニメ化となる。『ジョジョの奇妙な冒険』第4部『ダイヤモンドは砕けない』に登場する漫画家・岸辺露伴が、取材などで訪れた先で遭遇した、にわかには信じがたい“奇妙な”出来事をつづった体験談だ。それぞれに独立したエピソードとなっており、これまでに漫画版が2冊・小説版が2冊発売されている(その他にも、番外編として『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『岸辺露伴 グッチへ行く』等がある)。流行りの言葉を借りれば、“ジョジョ・ユニバース”的なシリーズといえよう。

 ちなみにタイトルの「動かない」とは、このシリーズでは岸辺露伴が主人公ではなく、あくまで取材者であり傍観者である、という意味合いなのだそう。自ら動くのではなく、事件に巻き込まれて体験する――というような体裁なのだ。このあたりの設定やワーディングにも荒木氏の非凡なセンスを感じるが、そもそもの成り立ちも非常に面白い。

『懺悔室』

 『岸辺露伴は動かない』の第1作となる『懺悔室』が世に出たのは、1997年。『週刊少年ジャンプ』の編集部から「45ページ以内の短編。スピンオフ・外伝は絶対禁止」との依頼が荒木氏のもとに届き、最初はその条件で執筆を進めていたのだが「露伴先生が解説してくれた方が断然良い」という荒木氏の判断により、現在の形になったそうだ。ということは、本作はまさに奇縁によって生まれた作品。昨今、人気漫画のスピンオフ作品が多数制作されているが、それらとは異なる偶発的な産物といえる。

 ここで岸辺露伴について少し補足すると、好奇心旺盛で負けず嫌い、かつ偏屈な人気漫画家で、「ヘブンズ・ドアー」と呼ばれるスタンド(『ジョジョの奇妙な冒険』における特殊能力)の持ち主。相手の記憶を読み、指示を書き加えることができるという強力な能力を操り、創作活動に生かしている。その彼が、様々な怪異をスタンド能力で解決する・あるいは切り抜けるというストーリーが、この『岸辺露伴は動かない』の基本構造となる。

 これまでアニメ化された作品は、全部で4本。『懺悔室』『六壁坂』『富豪村』『ザ・ラン』となる。これ以外のエピソードも屈指のクオリティだが、本稿ではこの4本に絞り、紹介していきたい。

 まずは、それぞれの簡単なあらすじから。『懺悔室』は、イタリアを訪れた露伴が、立ち寄った教会の懺悔室で耳にした不思議な物語を読者に聞かせる、という流れになっている。貧しい青年が、作業中に浮浪者に「食べ物を恵んでほしい」と言われ、荷物を運ぶことを条件に承諾。しかし、作業中に浮浪者は死亡。彼から「『幸せの絶頂の時』お前を迎えに戻ってくる」と予言された青年は、その後幸運が重なり、億万長者となる。だが、幸せの絶頂を迎えた時に、浮浪者が思わぬ形で戻ってきて、彼に“死のゲーム”を強要するのだった。

『六壁坂』

 『六壁坂』は、ボーイフレンドを事故死させてしまった旧家の娘が、死体を隠そうとするが、いつまでも血が止まらない異常事態が発生し……という物語。その後、妖怪伝説の取材にその付近を訪れた露伴にも、恐怖が襲い掛かる。残酷描写含め、シリーズ屈指のおぞましいエピソードといえよう。

 実写化もされた『富豪村』は、「山奥にある不思議な別荘を買う」という編集者の泉京香についていった露伴が、その場で“マナー試験”を課せられるストーリー。観る者のマナー知識をも試すような、野心的な内容だ。

 そして『ザ・ラン』は、ここでしか観られない露伴の絶望の表情が収められた、アクション色強めのエピソード。モデルの橋本陽馬は、筋肉をつけることに取りつかれ、常軌を逸したサイコパスとなっていく。そして彼は、同じジムの常連客である露伴に、トレッドミルを使った勝負を挑む。余談だが、原作では言葉だけではあるものの、陽馬が参加した撮影現場の説明で「綾野剛と佐藤健」が登場する回でもある(『るろうに剣心』ないし『亜人』だろうか?)。

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