『麒麟がくる』が描いた新たな明智光秀像 織田信長の愛憎混じった「是非もなし」

 天正10年6月2日の早朝、明智軍は本能寺に攻め入った。外を眺め驚く信長に無数の矢が降りかかり、その1本が左肩に突き刺さる。「十兵衛か! であれば是非もなし」と不敵な笑い声をあげる信長だが、その眼にはうっすらと涙が溜まっていた。そしてまた、燃え盛る本能寺を見つめる光秀の目にも一粒の涙が光る。防戦するものの多勢に無勢、とうとう信長は蘭丸(板垣瑞生)に火を付けるよう命じると部屋に籠って自害する。

 「必ず麒麟が来る世にしてみせる」と熙子に誓った思い虚しく、6月13日に光秀は羽柴秀吉(佐々木蔵之介)に倒されてしまう。そして本能寺の変から3年後、馬で走り去る光秀の姿を見た者がいたというのは夢か現か幻か、知る由もない。

 本作は、放送開始直前の帰蝶役交代に伴う再撮影を余儀なくされ、2週遅れのスタートとなった。その後も新型コロナウイルスの影響で長い撮影休止となり、放送も一時中断。再開後は大掛かりな合戦シーンが減らされるものの、登場人物の人間関係によりフォーカスがあてられる。光秀役の長谷川とそれを取り巻く役者たちの豪華な演技合戦は、濃厚かつ見応えのあるものとなった。不測の事態が重なりつつも、様々な工夫により最後まで素晴らしい作品を届け続けてくれた役者及びスタッフ陣に、深い感謝の気持ちを伝えたい。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin

関連記事